「透析のゆくえ」
7月末に、日本医学ジャーナリスト協会で、透析に関する講演がありました。
講師は東京慈恵会医科大学の横山啓太郎先生。「透析のゆくえ-腹膜透析という身の丈の医療」と題されたこの講演は、近年の透析医療の変化とこれからの展望をふまえた上で、これから透析がよりよい治療になるために必要なものはなにか、大変示唆に富む内容でした。
毎年透析患者の数は増えており、且つ高齢化しています。 また、現在の医療は、ガイドライン中心のマニュアル型に変化してきており、マニュアル型の治療は、エビデンスに基づいた質の高い治療の平準化という長所がある一方で、生命予後がよければ良いという画一的な治療が蔓延することにも繋がると言います。
日本の透析治療においてはさまざまな理由から血液透析に偏っている状況にあるため、高齢者が透析を導入した場合でも週3日通院して透析を行い、通院ができなくなったら、入院して透析が受けられる施設を探し、これまで生活していた場所から離れて透析を続けるという状況も出てきているそうで、横山先生は、この先、さらなる透析患者の増加、高齢化が予想される中、このままの医療で良いのか?血液透析だけでは透析医療は行き詰っていくのではないか?という問題を提起しておられます。
血液透析と腹膜透析にはそれぞれ長短所があり、患者さんや家族のQOLをどう維持していくのかと、それぞれの患者さんの状態を総合的に勘案して、血液透析、腹膜透析、血液透析と腹膜透析の併用、移植等も含めベストな選択がなされなければならない、というのが横山先生のお考えです。
透析導入時に、40%の患者さんが治療に選択肢があるという説明を受けていない、という状態は日本特有の大きな問題で、たとえば、末期がんの患者さん40%に特定の治療選択肢が開示されていなければ大きな問題でしょう、という先生の問いかけは切実です。
講演内容は、下記に報道されています。(リンク切れしている場合がありますのでご注意ください)
■高齢者にもやさしい「低容量腹膜透析」 1日1~2回、在宅で可能(J-CAST)
http://www.j-cast.com/2012/08/12141873.html
今回の講演のポイントは、血液透析か腹膜透析かのどちらかを選ぶ、という単純な治療選択時の情報開示をきちんとしよう、という点だけではありません。患者さんにとって「良い透析とは何か」ということを医療者は考え続ける必要がある、という点にあります。
横山先生の勤める東京慈恵会医科大学では、血液透析・腹膜透析に加え、血液透析・腹膜透析の併用療法や、低容量の腹膜透析の実施など、柔軟な透析治療の組み合わせで、患者さん個々人の状態にあわせて最適な医療の提供を試みており、在宅で透析を行う患者さんの状態を把握するために、モバイルシステムの使用もはじめておられるとのこと。
透析の効率が高いが通院などの負担がある血液透析。体に負担が少なく在宅で治療ができるが継続できる期間が限られること、透析の効率が個々の腹膜の状態によって差がでる腹膜透析。血液透析・腹膜透析併用療法は両方の治療法の長所・短所をそれぞれ補っているといいます。
また、腹膜透析では、一般的に標準とされる1日4回のバッグ交換は高齢者の導入初期には不要なことも多く、高齢の患者さんや家族のバッグ交換の負担を軽減するために、1日1~2回のバッグ交換を行う低容量腹膜透析から始めるという方法を積極的に
提供されておられます。
みなさんも、自分や家族にとって「最適な透析」とは何か、アンテナをはって情報を集めつつ、考えてみてはいかがでしょうか。
