「世界ではじめてiPS細胞から腎細胞を再現 腎臓再生への大きな一歩」
1/22に、京都大の長船健二准教授らの研究グループがiPS細胞を使って腎細胞の再生に成功したと発表があり、多くのニュースで取り上げられました。世界に先駆した事例であり、腎臓の再生医療に弾みがつくと考えられています。詳しく見てみましょう。
今回、研究グループが具体的に成果をあげたのは、以下の3つの事柄。
【1】ヒトiPS/ES細胞のゲノムへ効率良く相同組み換えによる遺伝子導入を行う技術を確立
【2】ヒトiPS細胞から中間中胚葉を高効率に分化させる方法を確立
【3】ヒトiPS細胞から誘導した細胞で、腎尿細管の構造を再現
非常に専門的な内容なので、それぞれを一般の私たちが理解するのは難しいのですが、【1】~【3】はそれぞれが腎細胞を効率的に再生するために重要なステップです。まず、腎臓の細胞は「中間中胚葉」という細胞群から作られる、という前提があります。そのため、腎細胞を再生するには、iPS細胞を「中間中胚葉」に分化させることが不可欠ですが、今までは、そもそもきちんと分化できたかどうかを見分けることが困難でした。
そこで【1】の技術確立によって、iPS細胞から中間中胚葉に分化した細胞の特定の遺伝子を光らせることに成功。中間中胚葉になっているかどうかを評価できるようになりました。確実な評価系ができたことにより、高い効率で中間中胚葉へ分化を誘導する方法を確立することができました(=【2】)
最終的に、【2】でつくられた中間中胚葉をマウス胎児の腎細胞と共に培養し、一部の細胞で腎尿細管の構造の再現を確認できました(=【3】)。よって、今回作られた中間中胚葉は腎細胞を再生する能力をもっている、とみなすことができます。
この研究が進捗すれば、患者さん自身の皮膚細胞などをiPS細胞化して臓器として腎臓を再生し、移植することも夢ではないと期待されています。今回の研究成果は、すぐに患者さんの現場まで応用できるものではないですが、大きな一歩と言われています。
詳しくは京都大学HPへ
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2012/130123_1.htm
※写真はイメージです。
昨年10月の山中教授のノーベル賞受賞は大変記憶に新しいところです。
受賞理由は「成熟した細胞が初期化され、多能性を獲得する現象の発見」。初期化とは細胞の過去をいったん消去し、さまざまな細胞に育つ可能性のある受精卵のような状態に戻すこと。要は、皮膚の体細胞などから“万能細胞”を作り出した功績に与えられたものです。
同じように“万能細胞”とされていたES細胞は、受精卵を破壊せずはとりだせないため、生命倫理上の制約があり、なおかつ移植の際の免疫拒絶があるため、iPS細胞には大きなメリットがあります。
なお、今回の腎臓のように、iPS細胞をもちいた人間の細胞の作成は着実に成果をあげつつありますが、実は、臓器細胞などの作成がiPS細胞の登場によって初めてなされた、というわけではありません。
もともと様々な幹細胞を人体の別の細胞に変化させる、という研究自体はiPS細胞の作成よりも遥か前に行われ、成果も出ていました。iPS細胞の功績は、他の細胞をつくりだす素を、これまでよりも効率的かつ大量に作り出し得ることを可能にした点にあります。
