腎臓教室 Vol.12
特集「透析になった時の費用は?」 透析導入時の社会保障
透析を導入したら医療費はどれくらいかかるのか、ご存じですか。 今回は透析導入時の医療費や利用できる福祉サービスなどについて簡単にみてみましょう。監修:仁真会白鷺病院 医療福祉科科長 藤田 譲先生
透析にかかる費用は殆どゼロ
「透析を始めたらお金がかかるだろうな」と、多くの方はまず費用面を心配されるでしょう。でも、その点は大丈夫。基本的に透析の場合、患者さんの医療費の自己負担額はゼロです。なぜゼロなのか、その理由を簡単にみてみましょう。人工透析は外来透析で1か月約50万円もかかるとても高額な治療です。ですが、医療保険の「高額療養費」の特例が適用になるので、1か月に1万円だけ負担すれば、あとの医療費についてはすべて医療保険によって負担されます。(入院時の食事代など)
さらにあとで紹介するように身体障害者手帳を取得できますので、自治体によって残りの1万円に関しても助成が受けられます(公費負担)。このような制度のおかげで透析の自己負担費用が「ゼロ円」になるのです(表1参照)。また、老人保険の場合でも、1か月の自己負担限度額が公費負担となるので、ゼロ円(表2参照)。さらに65歳以上の方や40歳以上で糖尿病性腎症の方は介護認定を受けた上で介護保険を利用することもできます。
なお、医療保険の高額療養費特例の利用も、公費負担の利用も複雑な手続きが必要です。またそれぞれの必要書類や提出先なども違います。病院には「医療ソーシャルワーカー」という福祉の専門家がおりますので、気軽に相談して便利な仕組みを上手に利用しましょう。
◆表1
1万円を除く額 | 1万円 |
医療保険(長期高額疾病) ※入院中は別に食事代の自己負担がかかります。
自己負担=公費負担
◆表2
自己負担限度額以外の医療費 | 1ヶ月の自己負担限度額 |
老人保険※入院中は別に食事代の自己負担がかかります。
自己負担=公費負担
参考資料: 社団法人全国腎臓病協議会『高齢透析患者のためのガイドブック』(改訂版)、2001年
身体障害者(1級)に該当
慢性腎不全により透析を導入すればたいていの方は身体障害者手帳(1級)に該当します。また腎臓を移植したあとでも、免疫抑制剤などを飲んでいれば身体障害者手帳の対象になります。身体障害者手帳(以下、手帳)とは、身体障害者であることを証明するものですが、透析を導入したら自動的に手帳が送られてくるわけではありません。前の項で述べた「公費負担」を利用する場合にも、手帳が必要になるので、本人の住民票がある市区町村の福祉担当窓口に申請をし、手帳を発行してもらいましょう。申請の仕方についても、医療ソーシャルワーカーや各自治体の福祉担当窓口に相談しましょう。
利用できる福祉サービス
身体障害者手帳を提示することによって、次のような福祉サービスを利用することができます。- 特別障害者手当や児童扶養手当の受け取り(ただし各手当に条件あり)
- 交通機関(タクシー、鉄道、バス、飛行機、有料道路など)の料金割引
- 駐車禁止区域での駐車許可証の発行
- 福祉定期預貯金の利用、など。
また次のような税の減免も利用できます。
- 所得税の控除
- 相続税の控除
- 預貯金・国公債の非課税
- 住民税の控除
- 自動車(軽も含む)税や自動車取得税の免除・減免、など。
※上記福祉サービスは、身体障害者等級・種別・所得・居住地の福祉制度により若干異なる部分があります。詳しくは居住地各自治体の福祉担当窓口へ問い合わせ・確認の必要があります。
「患者会」の成果
今回ご紹介した福祉制度は、初めから誰もが利用できたわけではありません。1967年、透析に健康保険が適用になりましたが自己負担額はまだまだ高額でした。そこで当時の腎不全患者たちは全国各地で「患者会」を結成し、透析医療の進歩を促したり、国や地方自治体の制度を改善させてきたのです。1972年の「医療費自己負担を公費負担」も「身体障害者手帳の交付」も、患者会の活動で得た成果。この医療制度を支えるためにも、透析導入の前から患者会(腎友会)への入会も検討してみてはいかがでしょう。透析の先輩から教えられることが沢山あるはずです。