腎臓教室 Vol.34
慢性腎臓病の基本的な考え方 ー治療の意識と最新情報ー
慢性腎臓病はなぜ進行するのでしょう?
慢性腎臓病でもっとも多いのは糖尿病による糖尿病性腎症で、次に多いのは糸球体腎炎と高血圧などによる腎硬化症です。いずれの場合も腎臓の糸球体が障害され、ある程度進んでしまうと、なかなか元の状態に戻らなくなります。したがって早期発見・早期治療が大切です。では、慢性腎臓病がなぜ進みやすいのかをご説明しましょう。糖尿病性腎症などの慢性腎臓病があると、糸球体の入り口の血管が広がり、多量の血液が糸球体に入り込むために、糸球体の中の圧が上がります。その圧力で糸球体の細胞が壊されていきます。同時に、その圧力でたんぱく質が押し出されて、尿の中に流れ出やすくなり、蛋白尿が増加します(図A)。
蛋白尿は慢性腎臓病があるかどうかの診断に使われますが、蛋白尿が多いと慢性腎臓病が進行しやすいということもわかってきました。
治療はどのようにすればよいのでしょう?
したがって、慢性腎臓病の治療の目標は蛋白尿を減少させることになります。蛋白尿を減少させるためには、糸球体の中の圧を下げてやるのが合目的です。そのために、糸球体の出口を広げる薬であるACE阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が使用されます。糸球体の出口の血管が広がれば、糸球体の中の血圧が下がり、たんぱく質が濾過されにくくなります(図B)。蛋白尿が減少すれば、腎臓の障害の進行を止めることができます。
ACE阻害薬とARBはいずれも血圧を下げる降圧薬です。降圧薬を使用すると全身の血圧が下がると同時に、糸球体の中の血圧も下がり、腎臓の障害を防ぎます。したがってACE阻害薬とARBには二重の腎保護効果があります。
いままでの色々な試験の結果から、慢性腎臓病では血圧を130/80mmHg未満にするとよいことがわかってきました。また蛋白尿が多い人は、もう少し低めの125/75mmHg未満がよいと言われています。とくに糖尿病性腎症においてはつい最近、私どもが中心となって行った研究から、日本人においてARBが効きやすいこともわかってきました。
慢性腎炎の場合には、まずステロイド薬や免疫抑制薬など病状に応じた治療が必要になってきます。その他、腎臓病では、尿毒症を抑える薬、貧血を改善する薬など、様々な薬物が使われます。
色々な薬が処方され、「こんなに飲まなければならないの?」と疑問に思うこともあるかもしれません。しかし、薬には病気の進行を抑えたり、症状を改善したりと、それぞれに重要な働きがありますので、自己判断せずに、主治医の指示に従ってきちんと服用しましょう。