腎臓教室 Vol.134(2025年10月号)
CKD・透析患者さんに知っておいてほしい災害時の備えと対策
監修:菊地 勘 先生
医療法人社団豊済会 下落合クリニック
東京都区部災害時透析医療ネットワーク 代表世話人
慢性腎臓病(CKD)や透析を受けている患者さんにとって、災害時の備えは命を守るために非常に大切です。地震や台風などの自然災害は突然起こるため、平時からしっかりと準備しておくことが重要です。そこで今回、CKD・透析患者さんが災害時に安全に過ごし、治療を継続するためのポイントをまとめました。
マイナンバーカードで受診するメリット
医療機関では、マイナンバーカードを健康保険証として利用できる「オンライン資格確認システム」が導入されています。特に災害時には、この仕組みが患者さんに大きなメリットをもたらします。マイナンバーカードを使用すると、診療情報や処方薬の履歴、特定健診等の情報を、患者さんの同意のもとでかかりつけ以外の医療機関でも確認できます。災害時にかかりつけ病院に行けない場合でも、別の医療機関や救急病院で必要な治療を受けやすくなります。
透析患者さんの場合
マイナンバーカードを利用することで、人工腎臓(4時間未満、4時間以上5時間未満、5時間以上)、慢性維持透析ろ過加算、腹膜透析に関する診療報酬の算定履歴の閲覧が可能です。この算定履歴から透析方法が血液透析、血液ろ過透析、腹膜透析なのかの把握が可能となります。また、血液透析、血液ろ過透析の施行時間の推定や月・水・金または火・木・土のクールで実施しているかの把握が可能となります。すべてではありませんが、ある程度の情報を参照できることから、災害時の情報が少ない中での治療継続に繋がります。
保存期CKD患者さんの場合
特定健診等から、既往歴や合併症、腎機能関連(クレアチニン値やeGFR、尿たんぱくなど)、糖尿病関連(血糖やHbA1c)、脂質関連(コレステロールやトリグリセリド)、血圧などの情報が確認可能です。更に処方薬の情報が共有できるため、避難先での受診時に腎機能に応じた臨時処方や定期の内服薬の処方に役立ちます。
平時に考えておくべき災害対策
災害はいつ起こるかわかりません。いざという時に慌てないため、平時から以下の準備を整えておきましょう。
保存期CKD患者さんの災害時対策
透析を受けていない保存期CKD患者さんは、災害時の水分摂取や食事、服薬管理が特に重要です。
降圧薬や糖尿病薬などは腎機能を安定させるために必要です。すぐに処方を受けられない可能性がありますので、最低3日分(可能であれば1週間分)は常備しておきましょう。
避難生活のストレスや塩分摂取過多で高血圧になりやすいため、非常食の塩分量に注意が必要です。
最新の採血データ(eGFR・クレアチニン・尿たんぱくなど)を紙やスマホで持ち歩きましょう。
脱水や感染症は腎機能を急激に悪化させる恐れがあるため、こまめな水分補給を心がけ、体調変化があれば早めに受診しましょう。
食事管理を継続するためには
災害時は食料や水が不足し、CKD患者さんにとって適切な食事管理が難しくなります。以下の工夫で、腎臓に優しい食事を意識しましょう。
自分自身の身を守る「自助」の大切さ
災害時には行政や医療機関からの支援が届くまで時間がかかることがあります。まずは自分の身を守る「自助」の意識を持ちましょう。
命を守ることが最優先です。建物倒壊や津波の危険がある場合は、透析よりも安全な避難を優先してください。
透析間隔が空いたり、透析時間が短縮される可能性があるため、体重増加を抑える工夫が必要です。
災害時の集合場所や連絡手段をあらかじめ決めておきましょう。
災害時に強い透析治療とは
災害時には透析施設が被災したり、ライフラインが途絶えることがあります。以下の準備をしておくと安心です。
コラム
CKD患者さんにとって、災害時の備えは命に直結します。保存期患者さんは服薬、食事管理、水分補給を徹底し、透析患者さんは透析条件や施設情報を共有しておくことが大切です。マイナンバーカードの活用、平時からの準備、食事管理の工夫、そして「自助」の意識を高めることで、災害時にも安心して行動できます。