腎臓教室 Vol.68(2013年4月号)

患者と医療者が共同でおこなう治療法決定
シェアード・ディシジョン・メイキング

 治療法を選択し決定するにあたって、シェアード・ディシジョン・メイキングという考え方が広まっています。腎臓病のような慢性病の治療法の選択に有効であると考えられており、去る2013年3月3日、福島県で開催された医療者向けの研究会で、聖路加国際病院の小松康宏先生がこの考え方について講演をなさいました。患者の皆さんにも参考になる考え方ですのでご紹介します。

治療法を決める3つの方法

 一般的に治療法を選択する際には3つの方法があるといわれています。ひとつはパターナリズム、次にインフォームド・コンセント、そしてシェアード・ディシジョン・メイキングと、意思を決定する場面の状況に応じて様々な考え方がでてきました。

【1】パターナリズム
   (最善の治療法を医療者が決定)

 「医師あるいは医療者が信念を持って患者のために治療法を決定する」というものです。迅速な意思決定が求められる緊急の医療現場での、一刻を争う緊急手術などで実践されています。治療の有効性が明らかで、ひとつの最善の治療法が存在することが前提条件としてなければならないため、複数の治療法がある場合には適しません。腎不全のような慢性病では、なにがベストなのかが個人によって異なるので分かりづらく、この方法が最適ではないといわれています。

【2】インフォームド・コンセント
   (医療者が説明し、患者が同意・納得して患者が決定)

 『自分の治療は自分で決めたい』という患者さんの気持ちを尊重して発展したのがインフォームド・コンセントで、「患者は治療についてきちんと説明を受け正確な情報を持ったうえで、同意・承諾し、治療を受ける」というものです。しかし、インフォームド・コンセントが患者さんのために最善の方法かどうかという疑問もでてきました。それは提供される情報は医療側が提示しているもので、往々にして一方通行のことがあり、患者さんの意思が完全に反映されていない場合も存在する可能性があるからです。

【3】シェアード・ディシジョン・メイキング
   (医療者と患者が情報を共有して一緒に決定)

 そのようななかでシェアード・ディシジョン・メイキングという考え方がでてきました。「医療者は医療情報を患者に伝え、患者は積極的に自分の価値観や考え方を医療者に伝えることで、医療者と患者が情報を共有し、最善の治療法を選択する」というのが、シェアード・ディシジョン・メイキングです。  患者さんの情報を共有するにあたり、医師ひとりの力だけでは限界があるため、これと合わせてチーム医療の考え方も広まっており、医師や看護師、技師などが医療チームとして取り組むことが主流となっています。シェアード・ディシジョン・メイキングでは、患者さんもそのチームの一員として、自分の意思を伝える、わからないことを放置しないなど、積極的に治療の選択に参加することで、納得して治療法を選択できるようになると期待されています。

透析導入時のシェアード・ディシジョン・メイキング

 透析導入時に、与えられた情報をもとに自分自身で治療法を決められる患者さんの場合には、インフォームド・コンセントがうまく働きますが、患者さんによっては自分の望むことがはっきりしないこともよくあります。また透析は何年もつづく治療でライフスタイルに影響してきますが、患者さんにとって大切な価値観とか、好み、家族の状況などは、患者さんが教えてくれないと分かりません。さらに血液透析だったら通院しなければならない、腹膜透析だったら家族の支援が必要など、透析治療は多くの人が関与しておこなわれます。このような場合に、関係者全員がどう考えているのか、どうしてそう思うのかを話し合い、何がベストかを一緒に探していくのがシェアード・ディシジョン・メイキングです。

進む支援体制

 とはいっても、医療者が十分な時間が取れない、患者さんが難しくて理解できない、医療者にどうやって伝えれば良いかわからないなどということもあります。それをサポートするために、より分かりやすい教材やDVDなどを見てもらう、ピアサポートといって、経験者である患者さんから説明してもらうなどの取り組みも行われています。またインターネットなどを利用して治療法の選択を支援するツールなども提供されています。  当協会でも、医療者と患者さんの一助になればと考え、透析導入が必要となった患者さんが、今の自分の生活を振り返り、自分にとっての大切なことや心配ごとなどを整理するための支援ツールを提供しています。
 「シェアード・ディシジョン・メイキングという言葉は使っていなくても、実際には多くの病院で、患者さんに対してこのプロセスをおこなっていると思う」と、小松先生はおっしゃいます。
 慢性腎臓病・腎不全では「患者にとって最善の治療法」がひとつではなく、はっきりしていないことがあります。患者さんの価値観、好み、治療の影響を最も良く知っているのは患者さんご自身です。患者さんが積極的に参加し、治療法を選択して、治療にも取り組むことで、患者さんが納得して治療を受けられるだけでなく、医療スタッフの満足度向上にもつながります。

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