患者さんのためのコミュニケーション講座

【第5回】「これからの見通しを聞きましょう」「その後の変化も伝える努力を」「大事なことはメモをとって確認」

事務局長 山口育子さん

お話 NPO法人 ささえあい医療人権センターCOML 事務局長 山口育子さん

 何事も全体がわかっていて、いま自分がどこにいるのか、見渡せている方が行動しやすいですね。医療も同じです。今回は、治療途中で、どんなことをしていったらよいかを考えてみましょう。

「これからの見通しを聞きましょう」—道が見えていることが大事です

 治療を受けている途中途中で、これからの見通しを担当医に確認しておきましょう。それによって、大まかな予定を立てられ、自分のできることを考えておくことができます。

質問には、以下のような項目が考えられます。

  • 「これから、どのようなスケジュールで治療が進むのですか?」
  • 「受診頻度はどれくらいですか?」
  • 「大きく変化するとしたら、どのようなときですか?」
  • 「日常生活への影響はありますか?」 などなど

 「心づもり」という言葉がありますが、心の準備、心構えということですね。それがないのとあるのとでは大違いです。「このあたりで、休みを取らなければならないな」とか、道がわかっていれば、歩き方もおのずとわかって自分なりの工夫もでき、気持ちも落ち着いてきます。わからないことや、不安があれば質問しましょう。

「その後の変化も伝える努力を」—正直に、正しく。よくなったときも忘れずに。

 治療を受けていて、何か変化があったら、必ず主治医に伝えましょう。治療中は自分の変化を記録しておくのがベストです。
 もし、体調が悪くなったら遠慮せず、早めに受診して伝えます。がまんは禁物です。なぜなら、「自覚症状」は本人にしかわかりません。それをきちんと伝えないと、医師は正しい判断をすることができません。
 最もよくないことは、“元気なふり”。「一生懸命に治療してくれるお医者さんに悪いと思って…。本当はあまり具合がよくないのだけれど…」。これは最悪です。かえって、真剣に取り組んでいてくれる医師に対して非協力的で失礼な態度です。

「その後の変化も伝える努力を」---正直に、正しく。よくなったときも忘れずに。

 薬をきちんと飲んでいないのに「飲んだふり」をするのも厳禁です。検査データに変化が見られないと、薬が追加されたりします。これは危険なことですね。 薬を「飲んでいない」、あるいは「飲みたくない」場合は、正直にそれを伝えましょう。
 医師に「まだよくなりませんか?」などと言われて、プレッシャーを感じる人もいらっしゃるかもしれません。けれど、その場合も常に正直に伝えることが大切です。体調を偽って伝えたのでは、何のために医療機関に通っているのかわからなくなってしまいます。
 そして、よくなったときもきちんと伝えましょう。これを「ポジティブ・フィードバック」といいますが、案外よくなったときは伝えていないのではないでしょうか? 私は、担当の医師にはがきを書くようにしています。よくなったら、通院しなくなりますからお会いする機会もないので、そのままになってしまいがちですね。だからはがきに、「おかげさまで、いただいた薬も○日目くらいから効き始め、○週間後にはすっかり体調が戻りました」などというように。医師も、その後の患者さんの経過がわかり、うれしくもあり、安心もしてくださるようです。

「大事なことはメモをとって確認」—あらためて、メモの効用

 医師からの説明は、メモをとりながら聞く。これをお勧めしたいと思います。そうすれば、病名などで、もしわからない字があってもその場で聞けますね。メモを持っていれば、図を書いてもらうこともできます。前にもお話しましたが、メモは医療者とのよき媒介者です。
 以前、皮膚科に行ったときのこと、担当医が「ホッセキのあるキュウシンの場合……」とおっしゃったのですが、これは耳で聞いていただけでは何のことなのかさっぱりわかりません。「発赤」「丘疹」と字を教えてもらう、メモ帳に書いてもらうことで、「あー、なるほど」と、理解が深まるわけです。
 「メモなんて、とったことありません」という方は、テレビを見ながら内容をメモする練習から始めましょう。そして、“メモ魔”になりましょう。

 さて、次回は最終回。「納得できないことは何度でも質問を」「医療にも不確実なことや限界がある」「治療方法を決めるのはあなたです」をお話します。

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