心に残る患者さん ~ドクターズエッセイ~Vol.109(2020年2月号)

ドクターが忘れがたい患者さんについて語るリレーエッセイ。
(先生の肩書は掲載当時のものです)

岡田 一義 先生   

社会医療法人川島会 川島病院 副院長

「尊厳生」の立場で、積極的に行動している患者さん

 私は、2001年に、患者さんの意思を尊重して、人としての尊厳を保ちつつ、最期の時を生きる「尊厳生」の概念を公表し、2004年には「尊厳生」のための事前指示書を作成しました。透析医療に携わりながら、その啓発活動を継続した結果、「尊厳生」を支持する医療者も徐々に増え、最近は患者さんにも浸透しつつあります。

 全国腎臓病協議会(全腎協)通院介護委員会委員長の秋山祐一さんからの依頼で、2017年に「いずれ訪れる死の迎え方」の講演が実現しました。秋山さんは「この重要な問題に正面から向き合わなければならない」という強い意思をお持ちで、全腎協役員の中でも賛否が分かれている問題とお聞きしました。全腎協専務理事と香川県腎臓病協議会会長も兼任されている秋山さんは、「尊厳生」のための事前指示書を引用して、私の忘備録&家族への伝言のノート「わたしの手帖」を2018年に作成し、四国4県の会員に配布された心に残る患者さんです。

 2019年、私が開催した第17回日本高齢者腎不全研究会シンポジウム「高齢者慢性腎臓病におけるキュアとケアの融合」で、全腎協理事の尾方良光さんに「高齢透析患者からの意思表示」の発表を引き受けていただきました。当日、入院中であり、娘さんに代読していただきました。「透析に至るまで」、「38年前の透析」、「チーム医療の先駆け」、「患者会の目的」、「高齢透析患者の悩み」、「透析に関する学習と意思表示」について、父親の歩んできた道を代読する姿を見て、会場では涙を流す参加者も少なくありませんでした。この家庭ではエンディングノートを作成し、人生会議を行い、人生の終焉をどう生きていくのか日頃より話している心に残る患者さんとその家族です。

 2019年に福生病院についての報道があり、日本透析医学会は「透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」作成委員会を立ち上げ、私が委員長に就任しました。全腎協会長の馬場 享さんに委員として入っていただき、4月から月1回、10月から月2回のペースで議論を重ねています。患者さんはすべての情報を知る権利があり、諸外国のように腎不全治療の選択時に透析を開始しない選択肢も伝えるべきという意見もありますが、私と同じ方向を向いている馬場さんは、「患者は、医療者から言われたように行動しやすいので、医療者は尊厳生の立場で患者が人生を全うするように支援していただきたい」と終始一貫して強い意思で発言され、患者さんのための提言作成に大きな役割を果たされ、心に残る患者さんです。

 「尊厳生」、共同意思決定、人生会議、事前指示書の普及により、より良い医療とケアおよびその融合が生まれつつあります。人生の最終段階における緩和ケアの議論が深まり、患者さんの意思を尊重し、生命の質がより向上することを願っておりますので、馬場さん、秋山さん、尾方さんと全腎協役員の方々からすべての会員にこれらの情報をわかりやすく伝えていただければと思います。

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