心に残る患者さん ~ドクターズエッセイ~Vol.116(2021年4月号)

ドクターが忘れがたい患者さんについて語るリレーエッセイ。
(先生の肩書は掲載当時のものです)

心に残る患者さん ~ドクターズエッセイ~Vol.116(2021年4月号)

秋野 公造 先生   

参議院議員・医師

「そうはいかんざき!」

 私が心から尊敬する大先輩は、仕事を両立させる観点から、腹膜透析を選択して仕事を全うされました。お立場上、腹膜透析を導入していることを周囲に気付かれないよう、ご自宅に届く荷物にも配慮し、実際に報道関係者も含めてどなたも気付くことはありませんでした。

 ご一緒させていただく時など、医師の立場から「(腹膜透析は)いかがですか?」とこっそりお尋ね申し上げると、「何ともないよ」と笑顔でお話ししてくださり、激務の中で休憩時間を上手に活用しながら、透析液の交換もおこなわれたのでしょう。お仕事と腹膜透析を両立されました。

 「そうはいかんざき!」と悪代官の前に現れる有名なCMを思い出される方も少なくないでしょう。イラク復興支援のため、サマワにて現地調査をおこなうなど、現場主義を貫いた神崎武法公明党常任顧問は、腹膜透析にて党代表職も、その後の衆議院議員生活も全うされました。

 ご勇退後に「時間があるからね」という理由で血液透析に切り替えた神崎先輩。「定期的にゆっくり出来る時間を確保できる」と前向きにお話しくださいました。今でも私が困った時を見透かすように「大丈夫か?」と突然お電話を賜ります。そんな優しい神崎先輩の人生を24時間支えてきたのは、腎代替療法の適時適切な選択でした。

 昨年のNPO法人腎臓サポート協会の対談では、杉田倶子さんから腹膜透析と歩んだ前向きなお姿を学びました。松村満美子前理事長から、協会で実施したアンケートの結果をご指導賜ったことにこの場を借りて感謝を申し上げます。特に「透析や移植が必要になったとき、どの治療を受けるかを決める際に重要と思われること」の問いに対して、76.8%の人が「趣味や仕事など今の日常生活が続けられる」との回答には、一緒に対談した中元秀友先生のお言葉をお借りしますと「医療者は生存率が一番大事と考えがちなので驚きました」でした。確かに神崎先輩も「趣味や仕事など今の日常生活が続けられる」観点で、腹膜透析と血液透析を選択されていたのですね。あらためて、腹膜透析を選択できる重要性を再認識しています。

 近年、累次の診療報酬改定も手伝って、腹膜透析が推進されてきました。「仕事を両立できるようになったよ」との嬉しいお声をよく聴きます。腎代替療法は命を救うだけでなく社会復帰も可能とするコストパフォーマンスの高い医療です。身近な大先輩がその先駆けとなり人生を通して証明された「腹膜透析を選択できる素晴らしさ」をこれからも語ってまいりたいと思います。

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