心に残る患者さん ~ドクターズエッセイ~Vol.122(2022年10月号)

ドクターが忘れがたい患者さんについて語るリレーエッセイ。
(先生の肩書は掲載当時のものです)

心に残る患者さん ~ドクターズエッセイ~Vol.122(2022年10月号)

石田 真理 先生 (いしだ まり)

東海大学医学部付属八王子病院
腎内分泌代謝内科 講師

まずはコミュニケーションから!

 現代医療の3本柱は、患者中心の医療、共同意思決定、患者と家族の参加と言われています。医療の在り方も進歩し、患者さんとのコミュニケーションの重要性が再認識されています。

 そんな時代に私が慢性腎臓病医療に携わるようになり、はや30年近い歳月が流れていきました。主治医であるなしに関わらず、どれほど多くの患者さんたちと出会ったことでしょう。お一人お一人、名前を思い出すことはできなくても記憶の中に眠っていて、忘れることはないと思います。

 そんな中のお一人に、まだ駆け出しだった頃の私が出会った、津軽なまりの高齢女性Aさんがいらっしゃいました。その頃は、北海道で診療をしておりましたが、色々ななまりのある方がいて、患者さんのお言葉を聞き取るのも一苦労でした。若輩の私は、まずは、患者さんの話に耳を傾けることから始めなければと一生懸命訴えを聞こうとするのですが、Aさんの言葉は何度聞き返しても、単語すら理解することができませんでした。3回も4回も聞き直しても全く理解できなかった私に、もういい!というようなことを言って、そっぽを向いてしまわれ、申し訳ないやら情けない思いを致しました。高齢の彼女の世代の言葉は、まるで外国語のようで、病棟のある特定のナースしか理解できないのでした。のちに、彼女とはとても仲良くなることができました。それでも言葉はわかりづらかったのですが、なんとも味のある素敵な方でした。きっと多言語国家では、こんなことがたくさんあることでしょう。どこでも日本語が通じる、日本にいるとわからない、日本の良さでもあります。

 同じような話で、北海道弁の話があります。透析室を回診する中で、「お体の調子はいかがですか?」と聞く私に、「最近、こわいわ」と答える患者さんがなんと多いことか。北海道弁で倦怠感があることを「こわい」と表現します。これは、本当に日常頻出単語でした。「こわいって、ああ、だるいんでね?」と聞き返すと、「いやあ、だるいっていうか、こわいんだよね」と言われてしまいます。正直同じではないかと思うのですが、では、だるいとこわいの違いは何かと調べても、そこは使う側の感覚としか言いようがありません。言語感覚というのは、こういうことなんだなあと、ここでも言葉の壁と、コミュニケーションの奥深さを知った次第です。皆さんのそれぞれの地域にもこういう事ってたくさんあると思います。

 腎臓病治療にも、患者さんと医療者が一緒に力を合わせて立ち向かう、患者参加型医療が求められる現代、シェアード・ディシジョン・メイキング(共同意思決定)をおこなう第一歩は、医療者と患者さんとのコミュニケーションから始まります。良い医療をおこなう難しさを今も記憶の中の患者さんたちから教えられ続けています。皆さんも、まずは、医師、医療スタッフと信頼関係を築けるように、ご自身についてやお考えをたくさんお話してください。

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