心に残る患者さん ~ドクターズエッセイ~Vol.123(2023年1月号)

ドクターが忘れがたい患者さんについて語るリレーエッセイ。
(先生の肩書は掲載当時のものです)

心に残る患者さん ~ドクターズエッセイ~Vol.123(2023年1月号)

森 建文 先生 (もり たけふみ)

東北医科薬科大学 
腎臓内分泌内科

高齢者腹膜透析在宅医療に接して

 近年、高齢化とともに透析導入年齢は上がっており、当院でも80~90歳を越す患者さんが増えてきました。腹膜透析は在宅透析であるために通常月1~2回の通院であり、週3回の血液透析に比べると通院の回数は少なくてすみますので、通院が容易でない高齢者に向いた医療です。腹膜透析は高齢者であれば1日2~3回、お腹の中に液を出し入れする透析です。血液を使わないので、比較的安全に自宅で患者さんご本人か介護者によっておこなうことができます。自分でおこなうことが困難な高齢者は介護者に手伝ってもらいます。

 高齢患者さんは自宅で過ごされることを好まれる方や最期まで家で過ごすことを望まれる方が多くいらっしゃいます。現在、地域によって差はあるものの、70~85%程度の方が病院で最期を迎えられています。最近のコロナ禍においては病院に入院しているとご家族から隔離されたまま最期を迎えられる方が多くいらっしゃいます。そこで在宅医療である腹膜透析に目が向けられました。

 勉強会などにより訪問看護師さんや在宅医の先生方に腹膜透析を対応していただけるようになりました。また、大学病院と在宅支援診療所との連携により、ご自宅や施設でも病院と同じような管理をおこなえるようになりました。この連携により、高齢者が腹膜透析をしながらご家族の近くで最期まで幸せに過ごしていただくことが可能になりました。私も在宅医療を勉強させていただくため、在宅支援診療所を介して往診対応させていただいております。

 ある90代半ばの老々介護の患者さんはご自宅とデイサービスやショートステイを利用され、最期まで奥様と訪問看護師さんの介護と在宅支援診療所の医療を受けられました。旅立たれる日はギリギリまで奥様同伴で施設を利用され、最期に近づいたらご自宅に移られ、ご家族が集まり囲まれながら息を引き取られました。最期をご自宅で過ごされたいとのご本人の意思も尊重され、奥様の介護負担は軽減されておりました。病院と異なり、在宅医療介護では最期の時もゆっくり時間が流れ、ご本人の旅立ちをご家族がしっかり送ることができるように感じます。先日、病院に来られた際に外来にも寄られ、奥様のお元気そうなお顔を拝見し、介護をやりきった満足感が伺えました。

 心臓病と慢性腎不全で入退院を繰り返されていた、まもなく80歳の患者さんは船にのって釣りをしたいと腹膜透析を選択されました。在宅酸素をつけ、腹膜透析をしながら大鯛を釣り、にこやかにされるお顔が目に浮かびます。

 これらの患者さんやご家族を通じて、医療介護に人生を左右されるのではなく、人生のために医療や介護をあてはめる素晴らしさを勉強させていただきました。このような経験をさせていただいた方々に深く感謝したいと思います。

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