特集:正しく恐れる(2020年6月号)

腎臓病と共にイキイキと暮らす方々に、腎臓サポート協会理事長 松村満美子がインタビュー
(職業や治療法は、取材当時のものです)

特集:正しく恐れる
慢性腎臓病(CKD)・透析・移植患者さんの新型コロナウイルスとの向き合い方

患者さんの体験談~一病息災~ vol.110

飯野靖彦 先生
・日本医科大学名誉教授
・あだち江北メディカルクリニック名誉院長
・医療法人やよい会理事長

慢性腎臓病(CKD)、透析、移植患者さんが身を守るとともに、家族やスタッフを守り、社会を守るための新型コロナウイルスに関する正しい知識と付き合い方を、日本医科大学名誉教授の飯野靖彦先生にまとめていただきました。
これからの新しい生活様式に役立てましょう!

1. 新型コロナウイルスとは

 まず、皆さんウイルスとは何でしょう。中学校の生物の時間に習いましたね。この機会ですから復習してみましょう。
 我々の体は細胞でできています。ではいくつの細胞でできているのでしょうか?ある推定では、ひとつの細胞の重さを1ng(ナノグラム)とすると60kgの人で60兆個になります。でも、2013年に37兆個とした論文がでました。この論文ではさらに詳しく細胞の大きさを推定し計算しています。随分と数が違いますが、人間の体が多くの細胞でできていることがわかります。腎盂腎炎や膀胱炎を起こす細菌はこの人間の細胞と同じものです。ところがウイルスはこの細胞とは異なる生き物?です。生き物ではないという人もいます。なぜならば、ウイルスは自分自身では生きていけず、他の細胞に入って生きているからです。細菌と違う点は細胞膜を持たず、遺伝子だけをたんぱく質の殻に包み込んだだけのものだからです。狂牛病の原因であるプリオンも自分自身では生きていけません。生命とは何か?という根本に迫るのがウイルスやプリオンです。ウイルスはその突起を利用して細胞膜にくっつき、細胞内に遺伝子を注入します。そして、細胞内の核に入り込み細胞の複製作用を利用して増殖します。複製されたウイルスは再び細胞外に出て、他の細胞に感染を起こすのです。
 さて、人間に感染するコロナウイルスは7種類あり、ほとんどは通常の風邪症状でおさまります。ところが、長い間、人には入ったことのない動物のウイルスが沢山いるのです。中国のキクガシラコウモリから人にうつったSARSウイルス、アラビア半島のヒトコブラクダから人にうつったMERSウイルスなどが過去に蔓延しました。今回の武漢市から発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)もコウモリのウイルスが人に感染したと考えられています。新しいウイルスに対して人は免疫がないためすぐに蔓延して世界的大流行(パンデミック)を引き起こします。
 潜伏期は1~14日(平均で約5日)です。つまり、感染してから5日で症状が出てくることが多いのです。感染性(他人にうつす)は発症前2日から、症状消失後14~20日といわれています。

2. どのような症状が出るのでしょうか

 新型コロナウイルス感染症では初期症状は風邪とほとんど変わりなく、通常の風邪ならば4日程度で治るのに、1週間ぐらい長引き、80%の人は自然に治ってしまいます(図1)。
 しかし20%の人は1週間後から強いだるさや肺炎を起こし重症になります。その後10日ごろから肺炎などを起こし重症になる患者さんが2~3%あり、人工呼吸器やECMOと呼ばれる人工血液酸素化装置が必要になってきます。
 武漢の報告では、症状として、発熱(94%)、咳(79%)が多く、その他に強いだるさ、頭痛、息切れ、味覚異常・嗅覚異常、下痢、筋肉痛・関節痛なども認められます。
 最近の報告では、若い新型コロナウイルス感染者に脳梗塞が多いとか、小児の感染者に川崎病のような血管炎(足指のしもやけ様発赤)が起こることが報告されています。

3. どのように診断するのでしょうか

 新型コロナウイルス感染症は症状だけで風邪と見分けることはできません。味覚異常や嗅覚異常(33.9%)も他のウイルス感染でも認められます。肺のレントゲンでは異常が59.1%認められますが、もっと特徴的なのは肺のCT検査で、すりガラス状の間質性肺炎が初期から起こるといわれています(86.2%)。しかし、異常がない場合もあり確実ではありません。
 やはり、PCR検査というウイルスの遺伝子を増幅させて見つける方法が確実です。鼻腔から綿棒をいれ、鼻咽頭をこすり検体をとります(痰や口腔咽頭でも可能です)。しかし、PCR検査でも実際に罹っている人の60~70%しか陽性になりません(鼻咽頭)。つまり、偽陰性(罹っていても陰性になってしまう)が多いのです。その人たちはPCR陰性でもウイルスを持っていて、他人にうつす可能性があるのです。
 また、抗体検査をおこなう場合もあります。ウイルスが体内に入ると免疫反応によってウイルスを攻撃するグロブリンという物質(抗体)ができます(免疫グロブリンIg)。採血すれば測定できます。しかし、まだどのくらいの期間で陽性になるか研究段階です。今後、必要な検査になると思われます。

4. どのような人に感染リスクがあるのでしょうか

 感染のリスクの高い状態は (表1) に示したように、高齢者(65歳以上)、慢性肺疾患、心血管疾患、高血圧、糖尿病、肥満、免疫不全状態、透析・移植、肝疾患患者などが挙げられています。特に80歳以上では14.8%、70~80歳では8%の死亡率で、平均死亡率2.3%に比較して高くなっています。

それぞれの感染リスク、悪化リスクの高い人について述べます。

濃厚接触者:新型コロナウイルス感染者と接触があり、ウイルス感染がある可能性が高い人たちです。濃厚接触者はPCR検査をおこないます。

基礎疾患のある人:新型コロナウイルスに感染すると死亡率が上昇します。2月のJAMA(米国医師会発行雑誌)に報告された結果では、新型コロナウイルス感染死亡者の基礎疾患は、心血管疾患(狭心症、心筋梗塞、心不全、動脈硬化など)で10.5%、糖尿病7.3%、慢性呼吸器疾患6.3%、高血圧6.0%、がん5.6%でした。基礎疾患を持ってる人は注意が必要です。

保存期慢性腎臓病(CKD)患者:新型コロナウイルス感染症にかかりやすいか、あるいは死亡率が高いかはまだ統計がとられていませんが、CKDの患者さんは悪化のリスクがあることは予想されます。したがって感染しないように注意が必要です。

透析患者:透析患者さんについても正確な報告はありませんが、感染リスクは高いと思われます。日本の透析患者さんの主な原疾患が、糖尿病、高血圧による腎硬化症であり、また、高齢透析患者さんが多く免疫の低下もみられることから、感染リスクならびに重症化リスクは高いと考えられます(参考:南学正臣らのまとめた、腎臓病診療における新型コロナウイルス感染症対応ガイド)。

移植患者:NEJM4月24日号(米国医学雑誌)に腎移植患者さんの新型コロナウイルス感染について報告されています。免疫抑制薬を服用しているためリスクが高いのです。一般の感染者に比べ発熱頻度が低く、早期に悪化しやすく死亡率も高くなっています。より繊細な感染防御の注意が必要です。

表1:感染リスクの高い状態 高齢者 65歳以上 慢性肺疾患(COPDなど) 心血管疾患(心不全など) 高血圧 糖尿病 肥満 免疫不全・免疫抑制薬 透析・移植 肝疾患

5. 感染を防ぐにはどうしたらいいのでしょうか(透析患者さんと透析スタッフ)

透析患者:血液透析(HD)患者さんは週3回多くの人が透析室に集まりますので、感染リスクが高くなります。私が理事長をしているやよい会あだち江北メディカルクリニックでおこなわれている感染対策についてお話します。
 まず、自宅で体温測定をおこなってもらいます。朝起きた時の体温を測定し、37度以上ある時はクリニックに連絡し、指示を仰ぎます。他の患者さんにうつす可能性があるので、送迎車を使用せずに来院してもらいます。熱がなく送迎車でクリニックに行く時はマスクを着用し、なるべく車に触らないようにします。窓もできるだけ空けて密閉を防ぎます。運転手と患者さんの間は透明ビニールで遮蔽してあります。クリニックについたら、入り口で非接触型体温計を用いて、再度体温を測定します。そこで37度以上ある患者さんは感染用の隔離外来ブースで待機していただきます。そして、透析は個室で新型コロナウイルス感染を前提に隔離透析をおこないます。レッドゾーン(汚染区域)も決めてあり、テープや遮蔽によって、動線が他の人と交錯しないようにしてあります。入り口で発熱がない患者さんは待合室で2m以上離れて座っていただき、会話はなるべくしないようにお願いしています。透析中もマスクはしていただきます。

透析スタッフ:新型コロナウイルスだけでなく、通常業務でも感染の機会があるので、標準感染予防法をおこなっています。それは、透析患者さんごとに手袋を変える、マスクをする、ゴーグルあるいはフェイスシールドで目を守る、ガウンを着るなどです。また、穿刺や患者さんに接する前後で石鹸で手を十分に洗うことです。きちんとこのような指導をしていない施設は患者さんから要望を出しましょう。透析医会のホームページに詳しく予防法が述べられています。感染拡大でマスクなどがなくなってきましたが、工夫をして標準感染予防をおこなう必要があります。
 なお、腹膜透析(PD)の場合、通院は月1回程度ですが、遠隔管理システムを利用して、感染予防のためにさらに通院回数を減らす工夫をしている施設もあるようです。

6. 透析患者さんが注意すること

1. 毎日体温測定
2. 手指を洗う・マスク装着(図2のように5つのタイミングで手洗い)
3. 体重管理をきちんとする
4. 密閉・密集・密接を避ける(待合室、更衣室での3密、会話を避ける)
5. 透析中、前後の飲食は控える


 以上の点を注意して、慢性腎臓病(CKD)、透析、移植患者さん自身が身を守るとともに、家族を守り、スタッフを守り、社会を守ってください。

オンライン健康相談サービスの「LINEヘルスケア」では新型コロナウイルス感染拡大に伴い、現在無料でオンライン相談を提供しています(無償提供期間:6月26日まで)。飯野靖彦先生も回答医師として参加されていますので、新型コロナウイルスでご心配な方は相談してみてはいかがでしょう。

文献: Annals of Human Biology 40:463-471,2013/NEJM 2020 Feb28/NEJM 2020 April24/NEJM 2020 May01
日本腎臓学会:腎臓病診療における新型コロナウイルス感染症対応ガイド 2020/05/01
透析医会:透析施設における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン(5訂版)

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