特集 透析導入後も役立つ保存期の食事療法(2020年10月号)

腎臓病と共にイキイキと暮らす方々に、腎臓サポート協会理事長 松村満美子がインタビュー
(職業や治療法は、取材当時のものです)

特集:透析導入後も役立つ保存期の食事療法
もうすぐ透析と診断され、医師や管理栄養士の指導のもと食事療法を開始。
透析を導入したのは、それから13年後でした。

特集・透析導入後も役立つ保存期の食事療法 vol.113

大津 大津明日美 先生
・永仁会病院・管理栄養士
及川 及川茂 さん
・慢性糸球体腎炎・元自動車修理工

保存期の食事療法は腎臓を守り透析導入を遅らせる可能性があるだけでなく、透析に入ったあとの体調維持やストレス軽減に役立つといわれています。
しかし、食事療法は自己流では難しいもの。
今回は、管理栄養士の先生に、患者さんとの取り組みを紹介していただきました。

治療について納得できる病院選びと食事療法の重要性

大津 2007年当院受診後、食事療法をスタートし、1日あたり1800kcal(30kcal/kg)、たんぱく質40g(0.7g/kg)、食塩5gを目標としました。過去に指摘を受けながら放置し、数回の治療の中断が見られていたため、本人家族ともに納得して治療に向き合えるよう、腎臓の病態について、また食事療法の必要性を何度も説明し、はじめから腎臓病用特殊食品(低たんぱくご飯)を勧めました。主食は変えたものの、お仕事があるので外食や間食も多く、また海育ちのため、魚介の摂取量も多く苦労しました。しかし、毎月、体組成測定、血液検査と併せて24時間蓄尿検査をおこない、腎機能と食事の評価をおこないながら、食事療法に取り組みました。
及川 「もうすぐ透析だよ」といわれていたんだけど、治療法に納得できなくて病院を転々としていたんだ。本や資料で低たんぱく食事療法を知ることができたけど、どのようにやるのかはわからなかったから、きちんと管理栄養士が指導している病院を探し当てて、毎月やり方を教えてもらったよ。最初は低たんぱくご飯だけじゃ足りなくて普通のご飯を食べたり、おかずもおやつも食べて、うまくできていなかったんだ。でも指導を受けながら、記録したり、計ったりしているうちに慣れてきて、たんぱく質や食塩も減らすことができて、尿たんぱくは減るし、尿素窒素は下がるし、クレアチニン(Cr)は横ばいで上がらなくなってきたから、食事の効果を実感したね。特に、蓄尿検査は大変だったんだけど、食事療法がうまくいっていることがわかるから、とても良い指標になったと思う。

及川 茂 さん

1954年生まれ。66才

35才検診で尿たんぱくを指摘され慢性糸球体腎炎と診断されたが放置。
38才ネフローゼ症候群発症。その後通院を中断。慢性扁桃腺炎で扁桃摘出術。尿たんぱく消失するも、再び出現、放置。
51才糖尿病と診断。「もうすぐ透析」といわれたが、治療法に納得がいかず、病院を転々。
53才永仁会病院受診、クレアチニン(Cr)1.5mg/dl、尿たんぱく6.78g/日、eGFR39.8ml/min/1.73㎡(G3 b A3)、食事療法を開始し、半年後に腎生検実施。「糖尿病性変化の加わった膜性腎症」と診断され、インスリン導入のうえステロイドパルス療法を受け、尿たんぱくが3.98g/日と改善。その後毎月、24時間蓄尿検査を実施し、外来受診および栄養相談を受ける。
57才東日本大震災で津波に被災、避難所や仮設住宅でも食事療法継続。
65才狭心症で入院。一時的に透析導入。病院に低たんぱくご飯を持ち込み食事療法継続。退院後シャント設置。
66才2020年4月、血液透析(HD)導入。週3回、自宅近くの透析クリニックに通院。食事療法継続中。

有事の際にも学んだ食事療法で保存期維持

大津 2011年東日本大震災で津波に襲われました。幸いご家族は無事でしたが、家も職場も被災しました。劣悪な環境で4ヵ月の避難所生活を経験されましたが、治療は継続しなければと毎月受診を欠かしませんでした。避難所では今までの食事療法の知識を駆使して、自ら食品を選択していましたが、疲労と脱水で一時的に腎機能が悪化しました。その後、仮設住宅に入り特殊食品も購入できるようになり、再び真剣に食事療法に取り組むことができました。普段とは違う環境でも対応できる知識と経験が活かされました。
及川 避難所では食べるのがやっと。薬も低たんぱくご飯もなくなった。だんだん支給される食べ物もおにぎりだけではなく、パンやスープ、カップラーメン、果物など種類も増えたから、そのなかで塩分の多い麺はスープを残したり、カリウムの多いバナナは半分にしたりとか、考えて食べていたよ。仮設住宅に入り、電話もつながるようになって、低たんぱくのご飯を注文することができたから、おかずも種類や量を選んで食べられたよ。
 同じ仮設住宅に腎臓の悪い方がいて、Crが3mg/dlで自分と同じだったから、低たんぱくご飯を勧めたんだけど、今まで食事指導を受けてなくて、なんのことかさっぱり理解できないようだったんだ。その方は急激に悪化し、数ヵ月後に透析に入ったと聞かされたよ。

食事療法を継続するために必要なこと

大津 その後、腎機能が少しずつ低下する状況に合わせて、たんぱく質制限も40g→35g(0.6g/kg)→30g(0.5g/kg)と変更しましたが、熱心に食事療法を継続されました。
 透析といわれてから13年、震災から9年を経て、今年4月透析導入となり、現在は近隣の病院で食事療法を続けながら透析に通われています。身についた食事療法により、ストレスなく透析生活を送っているそうです。
及川 肉や魚、豆腐などたんぱく質のものはとにかく計量して食べていたけど、仕事しているしエネルギーをしっかりとらなきゃいけないと教えてもらったから、低たんぱくご飯の量と油は多かったね。調味料も計っていた。だけど、自己流や過信ではいけないから、定期的に栄養士さんの指導を受けながら、毎日無理しないようにしていたから続いたと思うよ。妻の協力にも感謝だね。
 それと、透析に入りたくないという気持ちは強かったな。治療を始めた当初は53歳。なんとか60歳の定年までは透析に入らないように頑張ろうと思って目標を持っていたら60歳を迎えることができてさ。会社の社長から65歳まで仕事を続けてほしいといわれて、新たな目標も達成できた。でも65歳の誕生日のあとに狭心症になって一時的にCrも10mg/dlになったし、主治医の松永先生に「透析だね」といわれたら観念しようと思っていたんだ。シャントはつくったけど、その後、なんとか7ヵ月ももったんだよ。
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いつも奥様と一緒に食事を作ります

腎不全保存期から透析導入期の食事療法のポイント

大津 低たんぱく食事療法は、たんぱく質制限、食塩制限はもちろんですが、適切なエネルギーが必要であるため、毎回、体組成検査をおこない、体重だけではなく、筋肉量、体脂肪量、浮腫の評価をおこないながら、十分なエネルギーがとれているかを確認しています。個別栄養指導や調理実習をおこないながら、自己管理できる力を育てることを目標としています。
 腎センター長の松永智仁先生はいつも「食事療法は患者さんが自分で調合する薬」といっています。管理栄養士の指導のもと、いかに患者さんが理解してコントロールできるようになるかがポイントです。そのために、腎臓の病態、今の自分の腎臓の状態、食事療法の必要性を繰り返し説明して、理解してもらうことが重要です。患者の人生のなかでライフイベントがあったり、環境が変わったり、病態が変わったりしますので、特に慢性疾患はずっと寄り添うことが重要だと思っています。
及川 管理栄養士さんによる指導は本当に役立ってるのよ。透析に入ってタンパク質制限は50gと緩やかになって、低たんぱくご飯もやめた。リンもカリウムも問題ないし、尿もまだ4回くらい出てるしね。塩分は変わらず控えている。保存期から教えてもらっているから今更なんてことないよ。それでエネルギーはとらなくちゃとご飯はしっかり食べているよ。ドライウェイトも保存期のときの体重のまま。痩せてないんだよ。食事に関してはストレスもないし、うまくできていると思う。
 今、透析に入ってわかるんだけど、やっぱり食事療法はやった方がいいと思う。もっと多くの患者さんに知ってほしいね。
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