特集 ~上手にかかろう~腎代替療法選択外来!(2020年12月号)

腎臓病と共にイキイキと暮らす方々に、腎臓サポート協会理事長 松村満美子がインタビュー
(職業や治療法は、取材当時のものです)

特集:~上手にかかろう~腎代替療法選択外来!
医療者と患者が一緒になって患者にとって最善の治療選択を決定する取り組みが推奨されています。受診と治療選択のポイントとは。

特集~上手にかかろう~腎代替療法選択外来! vol.114

「そろそろ透析か移植が必要」と言われたら誰もが不安を感じます。患者さんの不安を和らげ納得して自分に合う治療を選ぶことができるように、医療側から情報提供をしたり、患者さん側から相談しながら治療選択を支援する腎代替療法選択外来を設けている病院が増えています。その取り組みと、受診するときのポイントについて教えていただきました。

石田 石田真理 先生
東海大学医学部付属八王子病院 腎内分泌代謝内科 講師
腎臓病SDM推進協会事務局幹事として、シェアードディシジョンメーキングという手法をもちいた療法選択の在り方を広める活動をおこなっています。
松本 松本千恵美 さん
東海大学医学部八王子病院 腎内分泌代謝内科 看護師
25年以上にわたり腎臓病患者の看護に携わってきました。腎臓病患者の治療法選択では、400人以上の患者さんを支援しています。

1.療法選択外来とは

石田 腎不全の治療(腎代替療法)には血液透析(HD)、腹膜透析(PD)、腎移植だけでなく、HDとPDを組みわせた治療や、在宅でHDをおこなう在宅血液透析などがありますが、自分の病気の治療について十分に知らないまま血液透析を導入していた患者さんが多いことがわかってきて、最近では腎代替療法の情報提供をきちんとおこなう体制が整えられてきました。
背景にはシェアードディシジョンメーキング(SDM:共同意思決定)という概念があります。「エビデンスに基づいた選択肢の提示と、医療者の知識と経験、患者の価値観、意向を考慮し、医療者と患者が一緒になって患者にとって最善の治療選択を決定する」という考え方で、このSDMの手法を用いて療法選択外来がおこなわれることが推奨されます。SDMは決して新しい考え方ではなく、海外では1980年代から提唱されていました。現在も世界的に注目されている医療の基本方針のひとつです。日本においても実践されてきましたが、今回、2020年4月の診療報酬改定で看護師による腎代替療法指導が評価されるようになり、多職種から治療法を説明することが重要視されています。今後、この取り組みをおこなう医療機関が増えることが期待されています。

2.療法選択外来はどのようにおこなわれるのでしょう

石田 腎機能が悪くなり、かかりつけ医より腎臓内科外来へご紹介いただいたあと、病期により1~3ヵ月ごとに通院していただきます。まずはじっくりと患者さんの状態を知り、短い外来のあいだでもご本人との信頼関係を築いていきます。また、栄養指導や腎臓病教室をご紹介し、患者さんに腎臓病についての資料をお渡しして少しずつ理解を深めていただきます。療法選択外来の方法は、各施設の状況に応じてさまざまですが、基本的には腎機能がeGFRで30ml/min以下に悪化してきたら、できるだけご家族と一緒に外来の部屋で看護師や医師と30分以上の時間をかけておこなわれます。
松本 当院の療法選択外来は、5年以上の経験のある腎透析科外来担当看護師が、1時間かけて対応します。必ず、ご家族に同席していただき、患者さんとともに今後の生活と治療を継続できるように、一緒に考えていくお手伝いをします。医師にはなかなか言えないことも上手に聞き取ります。患者さんが「この治療がやりたい」という気持ちがあってもご家族の協力がないと難しい場合もありますし、ご家族の「全面的にサポートしたい」という熱心な気持ちをくんで治療法を決める場合もあります。

3.療法選択外来をかしこく受診しましょう

ポイント➀ あなたのことを教えてください

石田 そろそろ透析と診断されると、ほとんどの人はショックを受け、傷つき、なにも考えられなくなっているので、治療の説明をしても「はい」「はい」と聞いてはいますが、理解できていないことも多いようです。そして「もうお終いだ」「すべて諦めないと」と思いがちですが、そうではありません。療法選択外来では、そういった不安な気持ちや、理解できていないことを医療者と共有していただき、患者さんが何を大切に暮らしてきて、何を優先してどのような治療生活を送っていきたいか、あなたの事を教えていただく場所でもあります。そして、医療者の知識と経験を踏まえた選択肢をご提示して、患者さん自身にとって一番良い治療法を一緒に選択していく場所です。
松本 療法選択外来では、「透析はいや」と衝撃を受けている患者さんにお話しすることが多いので、治療を理解してもらう以前に、患者さんの考えや思い、一番大事なことを傾聴することから始めます。まずはお人柄を知るためにじっくり話を伺います。

ポイント➁治療の選択に参加しましょう

石田 多くの患者さんにとって治療選択のときに重要視するのは予後や治療効率だけではなくて、自分の考え方やライフスタイルを維持していけるかということです。なにが基準になるかは人それぞれですから、それに合わせて治療を選択できるよう支援します。
松本 最初はみなさん医師から提示された治療を受けると思っていて、治療選択に参加するとは考えていません。それが治療を決めるときに患者さんの考えを言ってもよいと分かると、自分の不安や希望を話すようになり、治療選択に参加できるようになります。
患者さんが大事にしたいことは人によって千差万別です。仕事を続けたい、旅行が好き、趣味を続けたい、友達と話すのが楽しいなど、話を伺っているうちに、大事にしていることが分かってきます。透析をしていてもその大事なことを続けられることが分かると、やっと話しを聞いてくださるようになります。
それからは説明するというよりも、患者さんの大事なものを生かすにはこの治療がお勧めであること、またはその治療はお勧めできないなどを提案させていただきます。最初は「透析なんかしない」と怒っていた患者さんが、1時間の療法選択外来のあいだにガラッと変わり、「分かった、仕事のことを考えてこの治療にしよう」と、透析を受け容れてお帰りになることもあります。

ポイント➂治療の選択肢を理解しましょう

石田 どの治療が自分に合っているかを考えるには、それぞれの治療について知ることが大切です。
当院では、腎臓関連の学会などから出されている「腎不全 治療選択とその実際」「腎臓病 あなたに合った治療法を選ぶために」という冊子を使って、治療を理解してもらったり、患者さん自身に冊子に書き込んでもらって自分の考えを整理してもらっています。
松本 治療について理解してくると、自分の希望に合うかどうかも分かってきます。週3回の通院が大変、仕事を優先したい、針を刺すのが嫌、趣味の時間を大事にしたいなどでPDを選んだり、自分で自宅でするのは不安、お腹から管が出ているのは嫌、通院した方が安心とHDを選んだりします。ご本人は高齢で自分では管理が難しくても、サポートするので自宅でする治療にしてほしいとおっしゃるご家族がいたり、逆に引きこもりにならないように通院する治療が良いというご家族もいて、選択の基準はさまざまです。

ポイント➃ 医療スタッフと一緒に考えましょう

石田 慢性腎不全の治療は生涯続くので、患者さんやご家族だけでなく、医師や看護師、管理栄養士や臨床工学技士、薬剤師などの医療スタッフが一緒に手を取り合っておこなうチーム医療です。治療選択にあたっても医療スタッフと一緒に考え、決めていきましょう。治療を決めるまでは何度でも迷って構いません。ライフステージの変化にあわせて途中で治療を変えることも可能です。まだよく分からないというときや決めかねているときは、勇気をもって「全部を理解できていません」「もう少し時間をかけて相談したいのですが」と伝えてみてください。患者さんが治療選択に参加し、病気や治療の情報を得て納得して治療を選ぶことは、より良い治療につながり、自分を守ることになるのです。
松本 医師は多忙ですし、患者さんも診療時間内ではなかなか聞けないこともあります。そんなとき患者さんから、「先生にはいえないけど、相談がある」といわれることがよくあります。いつでも私たち看護師に声をかけてください。

「そろそろ透析」と言われたら、自分の状態となぜ治療が必要なのかをよく理解して、主治医や看護師さんと一緒にこれからの治療について考えましょう。自分や家族の希望や思いをきちんと伝えて、納得のいく治療を選択することが大切です。

腎臓サポート協会では医療機関で相談するために役立つ冊子「あなたの腎臓を守るために」「腎不全とその治療法」と、ホームページでダウンロードして利用できる「生活振り返りシート」を用意しています。冊子ご希望の方は、書籍・映像の紹介ページよりお申込みください。
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