体験談 / 一病息災 Vol.124(2023年4月号)

腎臓病と共にイキイキと暮らす方々に、腎臓サポート協会理事長 雁瀬美佐がインタビュー
(職業や治療法は、取材当時のものです *敬称略)
  • 保存期

打矢 智枝子さん(うちや ちえこ)

患者さんの体験談~一病息災~ vol.124

受診と指導を守って
腎臓病保存期を維持

体を動かすこともおしゃべりも大好き。近くに住む娘さん家族と一緒に食事をしたり、友達と電話でおしゃべりをしながら過ごすのが健康の秘訣。定期的な通院で食事療法も服薬指導もきっちりと守る姿は、患者さんの鏡です。
聞き手:雁瀬 美佐(腎臓サポート協会)


年齢(西暦) 病歴・治療歴 クレアチニン GFR 尿素窒素
1934年生まれ
50代前半 近くのクリニックで高血圧を指摘される
60代~70代 高血圧と糖尿病を服薬治療でコントロール
84歳(2019年) 後期高齢者健診で腎臓の数値が悪く「このままだと透析になる」と言われ、大学病院受診 2.1 17.3 41
88歳(2023年) 現在、貧血治療(月1回の注射)と定期的な診察は大学病院で、高血圧・高コレステロール・糖尿病などの生活習慣病はかかりつけ医で治療 1.9 19.2 43

健康的な生活を送る中、高血圧に

雁瀬 最初にお電話をした時に声がとても若々しくて、お話が明瞭で、88歳とは思えませんでした。若い頃から健康に気を付けていらっしゃいましたか?
打矢 健康のことを考えながら過ごすということはしていませんでした。子どもが小学校に入った時にPTAでバレーボールを始めたのですが、卒業した後に一人でできるスポーツがないかと探していたところ、たまたま住まいの近くでテニスの講習会があったので参加し始めました。そのテニスが72~73歳まで続きました。テニスではグループがたくさんできて、春や秋の大会にも出場しました。テニスコートまで片道2キロの道を歩いて行って、テニスをしてまた歩いて帰っていましたから考えてみると元気でしたね。歩くことが好きでしたし、会社などで働いたことがないので時間もありました。
 でも52歳の頃体調が悪くなりました。頭が重くてだるい感じがあったので近くのクリニックを受診したところ、高血圧と診断されました。それ以来ずっと血圧の薬を飲み続けていて、血圧は安定しています。その他にも糖尿病や尿酸値の改善のための薬が出るようになりましたが、薬は毎日きちんと飲みます。自分は几帳面というより心配性なので、お医者様に言われたことはきちっとやらないとだめなんです。病院からもらってくるパンフレットはよく読みますが、逆にTVの健康番組は暗示にかかりそうで見ていません。

腎臓病は健康診断で発見

雁瀬 さらに腎臓が悪くなっていることは、いつどのようにわかったのですか?
打矢 市の後期高齢者の健康診断で、腎臓の検査値が悪くなっていることがわかりました。健康診断をしたかかりつけの医師に「腎臓の検査値が悪いですね。このままだと透析になりますよ。専門医のところへ行きなさい」と言われて、すぐに近くの大学病院を受診したのが腎臓病治療の始まりです。腎臓が悪くなれば透析になることは知っていて、「透析になったら大変だ。通うのも大変だし、嫌だなあ」と思いましたね。これが2019年の5月のことです。84歳ですね。それまでは腎臓が悪くなるなんて全く思いませんでした。自覚症状も全然なかったですから。
 いつも通っているクリニックのかかりつけ医はとても厳しいので、大学病院での新たな治療はもっと厳しいのではないかととても心配でした。

食事制限や水分摂取は日々の工夫でコツコツと

雁瀬 健康診断は大切ですね。大学病院の腎臓専門医を受診された時の説明や指導はいかがでしたか?
打矢 親身に説明していただき、とても安心できました。受診するとすぐに「栄養相談があるから行きませんか?」と誘われて娘と一緒に行きました。塩分に対する注意やキウイ、バナナなどカリウムの高いものは食べないほうがよいなどの説明を受けました。それまでは「バナナは一番栄養が良さそうね」と言っていましたが、それ以来全く食べていません。逆に鉄分が多いほうれん草は貧血の治療に勧められたのでよく食べています。お水も「1日2Lは飲んだ方がいい」と言われましたが、なかなか飲めません。でも500ml入りのボトルをいつも近くに置いて、気づいたら口に入れるようにして1日3本は欠かさず飲むようにしています。これならつらくはないですよ。減塩については元々塩分控えめな食生活でしたが、今は食材を購入する時は塩分表示を必ず見るようにしています。最初は、表示が一袋当たりの塩分量と勘違いしていましたが、100g当たりの表示だったので間違えないように注意しています。それと娘には「そこまでしなくてもいいんじゃない?」と言われるのですが、お醤油はスプレーでかけていますし、お味噌汁やおつゆなども飲むようなことはしていません。これも塩分を抑える方法の一つですよね。
雁瀬 今、日々どのように過ごされていますか?
打矢

打矢さん

夫が自宅で数年間闘病生活をしていたのですが、2年半前に亡くなりました。今は一人で住んでいますが、娘も近くに住んでいて毎日のように来てくれますし、電話も頻繁に掛けてくれますのでとてもありがたいです。普段は家で好きな俳優のDVDを観ることが多いですが、1日誰とも話をしていないなという日には友達に電話を掛けて1時間くらいおしゃべりをすることもあります。かけ放題はいいですよね(笑)。
 身体的にはひざに痛みがあってひざをつく動作ができませんからお風呂やトイレの掃除は週に1日ヘルパーさんに来てもらっています。私、甘え上手かもしれません。関わってくださる人たちにはとてもよくしていただいて、娘は「前より部屋がきれいになったね」なんて言います。思い出せば、昔から、お友達が何でもやってくれていましたね。
雁瀬 ご年齢を考えれば、体のあちこちに何かあってもおかしくないと思いますが、他はいかがですか?
打矢 そもそも昔から寝るのが下手なのですが、少し心配性のところがあって不眠になりやすいので、お薬をいただいています。それと腎性貧血もあり大学病院で定期的に注射の治療を受けています。日頃は、かかりつけのクリニックでお薬をもらいます。数年前に脊椎管狭窄症、すべり症で腰の手術をしたこともあり、杖を突いてゆっくり歩くようにしていますが、不自由はありません。日々おしゃべりをして楽しく暮らして最期はパタリというのが私の理想ですね(笑)。

自分で織った生地で作ったジャケットとマフラーは愛用の品

ご家族から見たお母様は

雁瀬 私の母も同年代ですが、打矢さんはずっとしっかりされていて羨ましく思います。娘(雅美)さんから見たお母様のこと、聞かせてください。
雅美

打矢さん

本当に友達も多くておしゃべりも大好きで、母のコミュニケーション力には驚かされています。また、母には嫌いな人や苦手な人というのがいなくて、仕切り屋さんでもないです。逆に甘え上手と言うか褒め上手で、母と話すとみんな気分が良くなってしまうようです。ヘルパーさんにも「私は家事が苦手でね」とか言って、ピカピカに磨いてもらっていますし。私もこんなおばあちゃんになりたいと思っています。
 病院の先生からも「腎臓は年齢と共に衰えていくのですが、打矢さんの場合は逆に改善していますよ」と言われるほど真面目に指導を守っています。これからも食事やコンサート、歌舞伎に一緒に行ったりして楽しんでもらいたいと思いますね。

インタビューを終えて

自作の織物でできたお洋服とストールを纏い、いつもDVDを観たりお友達やご家族と談笑するリビングでたくさんのお話をしてくださいました。物も人も日々の生活もとても丁寧に紡いでいらっしゃる姿と通院や診断・指導、服薬をしっかり守る姿勢はシンプルでもあり強くもある素敵な生き方でした。
あらためて日々の心掛けが大切なことを教えていただき、ありがとうございました。

 

雁瀬美佐

一覧に戻る