体験談 / 一病息災 Vol.60(2011年12月号)

腎臓病と共にイキイキと暮らす方々に、腎臓サポート協会理事長 松村満美子がインタビュー
(職業や治療法は、取材当時のものです)
  • PD

長井 信吉 さん(ながい のぶよし:1954年生まれ)

突然の「ステージ4」告知。救急救命士から事務職に代わり、APDで元気にお勤め継続!
1954年生まれ。高校を卒業後、消防署に入署。レンジャー部隊を経て、17年前から救急救命士として活躍。2009年7月に慢性腎臓病(ステージ4)の診断を受け、2010年4月に異動を申し出て日勤(事務職)に代わったのち、同年7月に腹膜透析を導入。家族は妻との間に一男一女。

患者さんの体験談~一病息災~ vol.60

消防士としてレンジャー部隊に配属され、その後は救急救命士として現場で活躍してきた長井さん。2年前に受けた半日ドッグがきっかけで腎臓の状態が「ステージ4」であることが突然判明。その後、現場から内勤に代わってAPD(夜間腹膜透析)をしながら勤めを続けておられる長井さんに、これまでの経緯と腹膜透析ライフについて伺いました。

最初の受診で、いきなり「ステージ4」と言われて

松村 腎臓が悪いとわかったのは、いつごろだったのですか。
長井 つい2年ほど前のことです。ずっと救急救命士として働いていて、55歳のときに職場(消防署)の斡旋で半日ドッグに入ったのですが、「肺に少し影があるから再検査を」と言われ、近くの医院で再検査を受けたら「異常なし」でした。その医院の先生が、せっかくだからとピロリ菌や血液の検査をしてくれたのですが、血液検査の数値に問題があったらしく、「専門医に診てもらうように」と海南病院を紹介してくれました。
松村 海南病院での検査の結果は?
長井 それが、海南病院の河島先生から、「もうステージ4まで進んでいますよ」(ステージ1からステージ5まである慢性腎臓病の進行を表す指標)と言われ、最初は何がなんだかわかりませんでした。
松村 そこでいきなり「ステージ4」とは、びっくりですね。ステージ4というと、腎臓の働きの程度は29%~15%で、「透析・移植について考える段階」とされています。 それでいきなり「ステージ4」とはびっくりですね。
それでいきなり「ステージ4」とはびっくりですね。
長井 河島先生からも、「いきなりこういう結果が出るはずはないので、これまでの健康診断で出ているはずですよ」と言われました。ですが、定期的に年2回の健康診断を受けて検査結果も見ていましたし、保険会社にデータを提出したこともありますが、クレアチニン値はそんなに高くありませんでした。
松村 クレアチニン値は異常なしでも、ほかに何か思い当たることはなかったですか。
長井 たしかに20年前から血尿は出ていて、大きい病院で検査を受けたこともありますが、結局原因はわからずじまいでした。その後も血尿は毎回出て、そのつどいろいろ検査をしましたが、いつも「どこに異常があるのかわからない」といわれました。 血尿は出ていましたが、「原因がわからない」といわれていました。
血尿は出ていましたが、「原因がわからない」といわれていました。
松村 たんぱく尿はどうでした?
長井 出たり出なかったりでしたね。
松村 血尿とたんぱく尿が出たら、腎臓病を疑われるはずだと思いますが、なぜ指摘されなかったのかしら? 慢性腎臓病(CKD)は早期発見・早期治療が重要で、ステージ2とか3の段階だと、今は透析に至らずに済むこともできますのにね。
長井 僕の場合はずっとわからずじまいで、わかったときには「ステージ4」ですからね。それまで腎臓病を指摘されなかったことに悔いが残ります。
松村 ご自身、「このごろ疲れやすくなったな」と感じることもなかったのですか。
長井 それはありました。人を担架に乗せたり降ろしたりすると、体がきつかったのですが、「歳のせいだろう」と思っていました。「ステージ4」といわれる少し前からひどく疲れるようになっていて、出動中息も苦しくなるので、肺が原因だろうと思い、とりあえずタバコはやめました。
松村 何年ぐらいタバコを吸っていたのですか。
長井 30年以上です。タバコをやめてから、活動中のつらさはなくなりましたね。
松村 大変な体力と気力ですね。30年以上の喫煙歴、ステージ4の腎臓でもって救急救命士の仕事をされていたのですから。

「APDなら職場(消防署)に通うことができる」と思って

松村 ステージ4ということがわかってからも、救急救命士を続けられていたのですか。
長井 いずれ透析になることがわかっていたので、昨年の4月に異動を申し出て内勤に代わりました。
松村 ステージ4を告知されてから、何カ月後に透析導入を?
長井 海南病院を受診したのが一昨年(平成21年)の10月で、その9カ月後、昨年(平成22年)の7月にカテーテルを入れる手術をして、そのあとすぐに腹膜透析を始めました。
松村 先生から「透析をしなければならない」と言われたときは、どのようなお気持ちでした?
長井 血液透析の患者さんを搬送したこともあったので、血液透析は知っていたのですが、腹膜透析については全然知らなくて、先生から「どちらを選びますか?」と言われても、まったくピンときませんでした。“腹膜透析”という言葉を聞いたのもそのときが初めてで、「腹膜透析とは何ですか」と訊ねたら、「寝ている間にする透析」と言われ、資料をもらって勉強して、「これなら職場(消防署)に通える」と思いました。
松村 それで、APD(夜間腹膜透析)を選んだのですね。
長井 そうです。血液透析だと職場(消防署)に通うのは無理だと思いました。
松村 APDの手順はすぐに身に付きましたか。
長井 覚えたら即退院できると思って、書いて覚えたり、頭の中で反芻したり猛勉強しました。結局、予定通り1週間入院しましたが…。
松村 退院後の経過はいかがでしたか。
長井 最初は「APDのみ」でスタートしたのですが、退院後最初の検査のときにクレアチニン値が落ちていなくて、1回だけCAPDを足すことになりました。透析液をお腹に入れて出社し、お昼休憩のときに排液だけをしていましたが、けっこう大変でしたね。それが今年7月の検査で結果がよくなって、「昼はもういいだろう」ということになり、「APDのみ」に戻りました。いまは夜9時から朝5時過ぎまで8時間やっているだけで、良好な透析生活が送れています。
松村 「APDのみ」に戻れてよかったですね。内勤に代わったとはいえ、透析液を入れたままの勤務はどうでしたか。
長井 とくに動きにくいということもなく、さほど違和感は感じませんでした。
松村 夜はぐっすり眠れていますか。
長井 ぐっすりとまではいきませんが、器械音も気になりませんし眠れています。ただ夜中に2回ぐらいトイレに行くので、そのときは起きてしまいます。
松村 治療を一時中断してトイレに行くことも可能ですが、長井さんはトイレに行くときはどうやって?
長井 僕の場合はトイレに一番近い部屋で寝て、器械もトイレに近い所に置いて、コードの延びる範囲内で行けるようにしています。
松村 現在、尿はどのくらい出ているのですか。
長井 蓄尿はしていませんが、1日5~6回はトイレに行っています。
松村 透析を始めてから、体の疲れ方は違います?
長井 全然違いますね。だいぶ楽になりました。
松村 トラブルなどは?
長井 最初は入院中に開けてはいけない栓を開けてしまい、アラームが鳴りました。同じ白色で同じところにあったので、間違えてセットしてしまったようです。退院後もアラームが鳴ったことはありますが、たいした問題もなく順調で、腹膜透析を選んでよかったと思います。

「本当に透析液は届くのか」透析導入後の旅行は不安だった

松村 署内の方は、長井さんが透析していることをご存じなのですか。
長井 全員知っていて、それが理由で内勤に代わったことも知っています。いま僕は57歳で定年まであと3年ですが、定年後も嘱託として3年勤務することができるので、できたらそうしたいと考えています。ただ腹膜透析を始めるときに、先生から「5年から7年で血液透析に変わります」と言われているので、それがちょっと心配ですね。
松村 たしかに5年~7年で切り替える方が多いのですが、数値がよくて10年以上やっている方もいらっしゃいますよ。それに血液透析に切り替わる前に、移植のチャンスが巡ってくるかもしれませんし。長井さんは献腎移植の登録は?
長井 移植は今も透析導入時も考えていなくて、登録もしていません。兄貴や母親は「あげるよ」と言ってくれますが、もらう気がしないし、妻にも僕はあげられるけど、「1つくれ」とは言えないですね。
松村 ちなみに長井さんは腹膜透析導入後、旅行には行かれましたか。「腹膜透析を導入したら旅行に行けなくなるのでは?」と心配されている方も多いのです。
長井 今年の5月に姪の結婚式で千葉に行きました。宿泊先に透析液を送ってもらいましたが、本当に届くのかという不安もありましたし、温泉に入りにくいという気もしました。慣れてくれば行けるようになるのかなとは思っていますが。
松村 大丈夫ですよ。腹膜透析をしながら海外旅行を楽しんでいる方もいらっしゃいますから。これから何かやってみたいことはありますか。
長井 とくにないですが、孫の成長が楽しみです。
松村 お孫さんのためにも、“元気なおじいちゃん”でいてくださいね。

インタビューを終えて

長井さんが結婚されたのはレンジャー部隊にいたとき。奥様は「危険だからやめて」などと言わず見守り、腹膜透析を始めたときも冷静に受け止めてくださったそうです。
以前は毎年家族で温泉旅行にいっていたのが、「今は行きにくい」と話されていましたが、少しずつ慣れて、お孫さんとの旅行も楽しんでくださいね。

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