体験談 / 一病息災 Vol.72(2013年12月号)

腎臓病と共にイキイキと暮らす方々に、腎臓サポート協会理事長 松村満美子がインタビュー
(職業や治療法は、取材当時のものです)
  • HD

小川 敦史 さん(おがわ あつし:1972年生まれ、秋田県立大学准教授)

透析していても生野菜が食べたいと低カリウム野菜を開発!
腎臓病になって研究分野が広がりました
1972年、奈良生まれ。
名古屋大学大学院農学研究科から秋田県立大学生物資源科学部へ。専門は作物生態学、准教授、ジュニア野菜ソムリエ。
2004年春、腎臓が悪いことが発覚、2005年11月血液透析導入。透析歴8年。2008年「低カリウムホウレンソウおよびその栽培方法」特許取得。2003年結婚、10年後の今年7月に長女を授かる。

患者さんの体験談~一病息災~ vol.72

大事なのは、低カリウム野菜をどうやって患者さんに届けるか。
研究成果を企業に無償提供し、開発とマーケッティングに期待!

最近、低カリウム野菜についてテレビなどでも紹介されていますが、この低カリウム野菜の栽培方法を確立したのが、秋田県立大学の小川敦史准教授。作物生態学が専門の小川先生は、自身が腎臓病から透析導入になったことで、低カリウム野菜の研究を始めました。低カリウム野菜誕生の秘話を伺ってきました。

自分で食べたいから低カリウム野菜を研究

松村 低カリウム野菜を作ろうと考えたのはなぜですか?
小川 2004年に腎臓が悪いことが分かり、いづれ透析になるだろうと診断されました。食事療法を始め、カリウムを摂ってはいけないことを知りましたが、調べてみると、カリウムがない野菜なんてない。それなら自分で作ってみようかと。
松村 始めたのはいつ頃ですか?
小川 2004年の7月。大学4年生の卒業研究の指導をしていて、自分で食べたかったので、「低カリウム野菜の研究は?」と勧めてみたんです。
松村 最初から、栽培方法はわかっていたんですか?
小川 いえ、全然わかりませんでした。カリウムは三大栄養素(窒素・リン酸・カリウム)のひとつですから、「減ればいいかな?」ぐらいでした。
松村 どのような方法で野菜のカリウムを減らすのですか?
小川
専門が作物生態学で、水耕栽培する技術を持っていたので、水耕栽培で培養液を調整すればできるのではと考えました。まさかこんなにうまく減るとは思いませんでした。 水耕栽培だから培養液を調節して低カリウム野菜ができる。温度管理も難しい
水耕栽培だから培養液を調節して低カリウム野菜ができる。温度管理も難しい
松村 最初はどの野菜を?
小川 ほうれん草です。野菜のなかでもカリウムが多く、これでうまくいけば、ほかの野菜は大丈夫だろうと思って。水耕栽培にも向いていましたし。そのあとレタスや、小松菜、ルッコラなど4~5種類で成功しています。
松村 どのくらい減りました?
小川 私の研究では、4分の1まで減りました。カリウムが少ない野菜はそのまま育てれば枯れてしまいます。でもその前に収穫すれば、低カリウム野菜として食べることができるわけです。

社会的背景が後押し低カリウム野菜販売に

松村 低カリウムほうれん草で特許を取られたのですね。
小川 はい、ほうれん草と葉物野菜2つで特許を取りました。私たち研究者は研究結果を商品に応用するとかはできないので、多くの企業さんに興味をもっていただくための特許です。その結果、全国から20~30の問い合わせがありました。
松村 研究結果は全部、無償で提供なさったのですか?
小川 販売に結びつくまでの試作段階では、無償で技術を提供します。ある企業さんでは、さらに研究し8分の1までカリウムを減らすことに成功しました。それが商品化され、東京ならいくつかのデパートで買うことができるようになりました。ほかの県でも、近々、福井や、関西でも販売されるようです。
松村 透析患者が30万人を超えて、保存期の方と合わせたら100万人以上の需要がありますものね。
小川
実は、100万人の需要といっても人口の1%ですから、それでは、普通にスーパーに並ぶ野菜にはならないんですね。 東京腎臓病協議会のホームページには低カリウムレタスの販売店一覧が掲載されている。
東京腎臓病協議会のホームページには低カリウムレタスの販売店一覧が掲載されている。
松村 でも最近かなり手に入りやすくなっているとか?
小川 それは社会的な背景もあるんです。2008年から経産省が植物工場を後押しするようになり、ちょうどリーマンショックで低迷した半導体メーカーが工場の利用方法を模索していたんです。
松村 それで多くの企業が興味を持ったんですね。
小川 そうです。そして震災後は、福島に植物工場を作ろうと補助金もでるようになったので、一気に広がりました。こんなになるとは思いもしませんでした。
松村 低カリウム野菜だけでなく、いろいろな機能性野菜を見かけるようになりましたものね。
小川 そうですね。実際に植物工場を経営してみると、普通のレタスでは儲からない。そこで何か、付加価値のある野菜が模索されていたんですね。

タンパク尿=腎臓病とは知らず、透析導入に

松村 ご自身の原疾患はなんですか?
小川 分からないんです。2004年の春に調子が悪く頭が痛くて我慢できなかったんです。それで脳ドックを受けたら、脳は大丈夫だけど、腎臓が悪いといわれました。
松村 どの程度悪かったんですか?
小川 クレアチニンが4を超えていました。低たんぱく食やクレメジンを飲んだり、いろいろやったのですが、2005年11月に透析を導入しました。
松村 保存期は1年半ですか。長かったですか、短かったですか?
小川 今考えると短いですけど、当時は長く感じましたね。考えてみたら、その前年から尿たんぱくで引っかかっていたんです。でも忙しくて病院にもいかずにいました。
松村 それは典型的ですね。その時に診て頂いていたらね。
小川 当時は尿たんぱくイコール疲れというイメージしかなく、腎臓病とは考えなかったんです。尿たんぱくが出たら腎臓を疑えというのを、もっと多くの人に知ってほしいですね。
松村 2004年だとまだそうでしたね。その後は、たんぱく尿についての啓発活動もずいぶんとなされるようになりましたけどね。

腎臓病になったから新しい研究と出会えた

松村 今はどんな研究をなさっているのですか?
小川 専門は稲の根っこの研究です。ちょうど進路を決めるとき、1993年の冷害による米不足を経験し、それで稲の研究室に入り、以来、乾燥害や塩害の時の根の働きについて研究しています。
松村 野菜ではないのですか?
小川
それと野菜に高付加価値をつける研究もしています。今は鉄分の多い野菜をやっていますが、ビタミンが多い野菜も研究してみたいですね。 鉄分やミネラルが豊富な高機能な野菜を作りたいですね
鉄分やミネラルが豊富な高機能な野菜を作りたいですね
松村 野菜ソムリエの資格も取られたそうですね。
小川 それは、話のタネに取りました。民間資格でたいしたことではないですが、話が弾みますし、皆さんに野菜の知識を持ってもらって、楽しんで野菜を食べてもらえるのに役にたつかなと思って。
松村 じゃ、野菜料理にはうるさいほうですか?
小川 いえ、カリウムを気にしながらですが、なんでも食べます。でもカリウムがきっかけでこういう研究も始めたのですから、腎臓病になったことも、あながちマイナスだけじゃないかなと思うんですよ。
松村 「必要は発明の母」とは良くいったものですね。これからも機能的で美味しい新しい野菜を生み出してくださいね。

インタビューを終えて

東腎協は事務局長・小関盛通さんの取材(「そらまめ通信」VOL.28)以来、5年ぶりの訪問でした。糸さんは看護師長から“ダイエット”を命じられているそうですが、隣の席の方も大柄らしく、「二人並んで座っていると相撲部屋みたい」という女性局員の一言に一同大笑い。糸さんみたいにハートがイケメンな男性なら、きっと素的なパートナーが現れますよ。

一覧に戻る