年齢・握力・ふくらはぎの太さから 腎臓病患者の心臓血管病リスクを推測!

2018年6月

 熊本大学は、筋肉の減少(サルコペニア)を診断することで慢性腎臓病(CKD)患者の心臓血管病リスクを予測できると発表しました。動物実験では筋肉増加に腎臓の保護効果があることを報告しています。

簡単なサルコペニア測定法の登場

 慢性腎臓病(CKD)患者さんでは、しばしば筋力や筋量が低下する筋萎縮が起こります。食事療法によるたんぱく質制限のため?と考えがちですが、そうではなく腎臓の働きが衰え尿毒素が体内に蓄積することが原因と考えられています。
 筋肉の減少と筋力の低下がすすんだ状態をサルコペニアといいます。CKDだけでなく心臓病やがん患者さんでもサルコペニアが起こると、病気の経過が悪くなることが分かっています。これは筋肉には臓器に良い働きをもたらす分泌器官としての働きがあることと関連があると考えられていて、研究が進められています。
 サルコペニアはCKD患者さんでは特に注意が必要ですが、サルコペニアの正確な診断は難しいのが現状です。というのは筋肉量の診断にはCTやMRIを使った測定が必要で、面倒な手順やコスト面から、どこの医療機関でも実施できる検査ではないからです。  それが2014年、年齢と握力、ふくらはぎの太さからサルコペニアスコアという数値を算出する方法が考案されました。サルコペニアスコアが高ければサルコペニアの可能性は高くなり、この方法であれば、特別な機械がなくても簡単にサルコペニアを診断することができ、さまざまな研究に応用されるようになっています。

心不全・腎不全のリスク評価が簡単に

 2018年4月11日、熊本大学の研究チームは、「サルコペニアスコアを診断する簡単な検査を応用することで、CKD患者の将来の心臓血管病発症リスクを予測できる」と発表しました。CKD患者さんでは心臓血管病を合併している人が多く、透析をしている人の死亡原因の第一位は心不全です。このためCKD患者さんが心血管病を発症するリスクを評価することは大変に重要で、簡単な検査法が求められていました。
 研究チームは、まず心不全の患者さん119名を対象に、退院前に算出したサルコペニアスコアと、血液検査や心臓超音波検査、その後の病気の経過を約750日間にわたり調べました。その結果、サルコペニアスコアが高いほど血液検査でのBNPという心臓の疲れ具合を調べる値が高く、心臓超音波検査で測定される左室駆出率という心臓の動き具合を調べる値が低くなることが分かりました。その後、個々の患者さんの経過を調べると、サルコペニアスコアの高い患者さんでは、心不全の悪化による再入院や死亡率が高いことが明らかになっています。
 次に同じ検査法でCKD患者さん265名を約650日間調べたところ、サルコペニアスコアが高いほど、筋肉は少ないのに、腎臓のダメージを表すクレアチン値も高く、心筋梗塞や心不全、脳卒中などの心血管病の発症率や死亡率も高いことがわかりました。
 この研究により、サルコペニアスコアにより、個々のCKD患者さんが心血管病を発症する確率を予測することができ、臨床に応用することで予防対策が立てやすくなると期待されています。

筋肉維持・増加で病気に強く元気な身体を!

 研究チームではこれまでに、動物実験により、骨格筋量を増やすことが心筋梗塞やCKDを予防する保護効果があることも報告しています。やはり筋肉には病気に強く元気な身体をつくる効果があるのですね。とはいえ筋肉は年とともに自然に衰えるものですから、CKD患者さんではなおさら、筋肉維持と増加を心がけたいもの。それにはやはり食事と運動です。運動療法を取り入れたり栄養相談を充実させる病院も増えていますから、主治医や管理栄養士と相談して取り組んでみたらいかがでしょう。

※「2018年6月号そらまめ通信」より

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