腎臓教室 Vol.105(2019年6月号)

~慢性腎臓病(CKD)の熱中症対策~
要注意!普通の熱中症対策ではNG!

めまいや頭痛、吐き気などの症状がでる熱中症。暑い夏のものと思いがちですが、身体が暑さに慣れていない5~6月の発症が増加し、熱中症対策についての情報も増えています。しかし慢性腎臓病(CKD)の人では、一般的な熱中症対策は命が危険にさらされることもあるとか!どこに注意したらよいのか、解説していただきました。

日本赤十字社医療センター腎臓内科 上條 由佳 先生

1. 熱中症とは?

熱中症は、暑い環境で体内の熱をうまく逃がすことができなくなって生じる症状の総称です。真夏に起こりやすい印象がありますが、梅雨時でも高温多湿な真夏日となる地域が増えており、熱中症にかかる人も増えています。

熱中症予防のためにこまめな水分や塩分摂取が重要である一方、高血圧や腎臓、心臓、内分泌ホルモン系の病気がある人は、水分のとりすぎによる重大な悪影響がでることがあります。

表1

表2

2. 一般の人の熱中症予防のポイント

●水分・塩分補給

水分や塩分制限のない方はこまめに水分を補給することが大事です。汗をかいたときは、スポーツドリンクや塩飴などで水分と共に塩分も補給しましょう。アルコールは尿の量を増やし体内の水分を排出してしまうため、ビールなどで水分の補給はできません。

●温度・湿度の確認

自分の体感で判断するのではなく、温度や湿度をこまめに確認するようにしましょう。天気予報や気象庁・環境省の情報サイトでの高温注意報や熱中症指数などを気にすることも大切です。

●エアコン・扇風機を上手に使用

熱中症は屋内でも起こります。換気して部屋の風通しをよくすることや、扇風機やエアコンを適切(設定温度28度以下、湿度60%以下)に使いましょう。

●日差しを避ける

外出時は、日陰を選んで歩く、日傘や帽子を使うなど日差しを避けましょう。また屋内では扇風機やエアコンを適切に使ったり、すだれやカーテンで直射日光を防いだりして、暑さを避けましょう。

●涼しい服装にする

高温多湿な日は通気性のよい、吸湿性・速乾性のある衣服を着用しましょう。襟元はなるべく緩め、熱気や汗が出ていきやすいよう通気しましょう。

●冷却グッズの利用

身体の蓄熱を避けるために冷却タオル、保冷剤などの冷却グッズを利用しましょう。首元など体表近くに太い血管が通っている部分を冷やすと効率的です。

●日頃の体調管理に努める

熱中症はその日の体調も影響します。睡眠不足や二日酔い、発熱や体力が低下している状態などで暑い環境に行くのは避けましょう。また、肥満や心肺機能や腎機能が低下している人などは熱中症を起こしやすいので、暑い場所での運動や作業は危険です。また日頃から適切な食事・十分な睡眠をとり、ウオーキングなどで汗をかく習慣をつけておくと、暑さへの抵抗力が増し熱中症にもなりにくくなります。

●暑い中での運動は避ける

夏の間、早朝の涼しい時間以外は運動を避けるようにしましょう。日中に運動したい場合は、室内の運動施設やプールなどを利用するといいでしょう。

3. ここが危険!慢性腎臓病(CKD)患者さんの熱中症

CKD患者さんは、体温を調節する能力が落ちている、水分や塩分を排泄する能力が落ちているという特徴があるため一般の熱中症対策ではうまくいかないことがあります。CKDのステージにより水分や塩分を排泄する能力が異なりますので、水分や塩分の摂取量を誤ってしまうと、命に関わる問題につながります。

特に、CKDステージ4~5や透析の人は特別な配慮が必要です。

4. 慢性腎臓病(CKD)患者さんの熱中症対策

●水分・塩分摂取での熱中症対策は危険!

一般の熱中症対策では、「塩分と水分を摂取すること」が基本ですが、CKD患者さん(CKDステージ4以降)の場合、過剰に摂取してしまうと腎不全の悪化や心不全につながります。また、血液透析や腹膜透析をされている方は、水分や塩分の調整を自分の体で行うことができなくなっているためより深刻です。一般の熱中症対策に有効なスポーツドリンクや塩飴、梅干しなどを摂取する場合は医師に確認しましょう。一回で大量に水分を摂るのではなく、こまめに少しずつ摂るようにしましょう。小さなコップを使う、水を飲むのではなく氷を一個なめる、といった工夫も有効です。

●環境対策をしましょう!

CKD患者さんは汗による体温調整機能が低下しているため、水分塩分摂取ではなく環境や行動を調整する熱中症対策をとるようにしましょう。

●記録をつけましょう!

脱水になると、血圧が下がる、体重が減るなどのサインが、水分や塩分の取りすぎの場合は、血圧が上がる、体重が増える、むくみが出る(瞼や手足など)などのサインが出ることがあります。日頃から血圧や体重の記録をすることで、早めに状態の変化に気づくことができますので、ぜひ毎日のご自身の体調チェックをしましょう。異常が出てきたときはかかりつけの先生に相談してください。

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