腎臓教室 Vol.107(2019年10月号)

わかっているようでわからない、食事療法あるある!
慢性腎臓病( CKD)の食事、よくある質問

食事療法のことはだいたいわかった!と思っていたのに、実際に調理するとなると「あれっ?」「これは?」と不安になることがあります。そんな疑問について、栄養相談によく寄せられる相談を、管理栄養士の田村先生に解説していただきました。

千里金蘭大学 生活科学部食物栄養学科 非常勤講師・管理栄養士 田村 智子 先生

Q:慢性腎臓病(CKD)の食事制限をすると、必要な栄養が取れないのでは?

どのような食事療法でも食べては駄目なものはありません。制限するということは、まったく食べないということではなく、体のためにも適切な量を摂ることが大切です。

CKDの食事療法の基本

① 減塩しましょう。
② たんぱく質を摂りすぎないように。
③ エネルギー量を確保しましょう。
④ カリウムを摂りすぎないように。
減塩は食塩や醤油をゼロにすることではありません。食塩摂取量は1日6g未満が適切とされていますが、1日3g未満の過度の食塩制限はよくありません。

たんぱく質制限は魚や肉を食べてはいけないということでなく、体のためにはたんぱく質は摂らなくてはいけません。たんぱく質が消化されるときにでる老廃物を少なくして腎臓の負担を軽減するためには、良質なたんぱく質(肉・魚・卵・大豆製品・乳製品など)を摂って、その他のたんぱく質を控えるようにしたほうがいいでしょう。魚の日、肉の日と決めたり、卵は1日1個、豆腐は1/4丁と決め、適量を食べるようにしましょう。極端に厳しいたんぱく質制限は、かえって体には悪影響です。

たんぱく質制限をしているとエネルギーが不足しがちになります。そうすると身体は筋肉などのたんぱく質を分解して必要なエネルギーを確保しようとします。そのとき老廃物が発生し腎臓に負担をかけますから、老廃物が発生しない糖質や脂質から適切なエネルギー を確保するようつとめましょう。
まずは3 食の食事でごはんやパン類など主食でしっかりエネルギーを摂りましょう。パンにバターや蜂蜜を塗る、紅茶に蜂蜜を入れるのもいいでしょう。チャーハンにして油を使う、野菜にマヨネーズやドレッシングをかけるなどは無理なく油を摂取できる方法です。
また高エネルギー食とするための治療用特殊食品もあります。粉あめやカロライナーはでんぷんを分解した甘味が少ない糖分で、マクトン類はエネルギーに変わりやすく脂肪になりにくい油脂です。これらを利用したクッキー類やゼリー菓子、飲料などがあります。

カリウム制限イコール生野菜がまったくダメとは思わないでください。食物繊維やビタミン類を摂るために1日に生野菜約50g(レタスの葉っぱ1枚、ミニトマト2個程度)は食べるようにしましょう。カリウムを減らすために野菜を茹でるときは普通の茹でかたで充分、ほうれん草なら1分も茹でればOKです。注意しなければならないのは、カリウムを多く含む100%ジュースやドライフルーツ、チョコレート、豆乳などです。

Q:栄養表示にナトリウム量と記載されているのは、食塩量とは違うのですか?

表示されているナトリウム量イコール食塩量ではありません。食塩はナトリウムと塩素からできていて、1gがナトリウム約400mgです。食塩相当量とは食品に含まれるナトリウム量を食塩量に換算した値です。
食品表示法(2015年4月に施行)によりナトリウムは食塩相当量で表示しなくてはならなくなりましたが、加工食品と添加物については5年間は以前の表示が認められるので、完全に切り替わるのは2020年です。

*ナトリウム含量は食塩相当量の約2.5倍、以下の計算式で換算できます。

ナトリウム (mg)× 2.54 ÷ 1,000=食塩相当量 (g)
簡単にすると… ナトリウム (mg) ÷ 400=食塩相当量 (g)

Q:厳しく制限しているつもりなのに、血清リン値がオーバーしてしまうのはなぜ?

リンが多いのは肉や魚、卵、乳製品などたんぱく質の多い食品で、鰻やはも、小魚など骨ごと食べる魚は特にリンが多く含まれます。
ほかに食品添加物を含む缶詰、冷凍食品、魚肉練り製品、ハム、漬物など加工食品にもリンは含まれます。これらはリン酸塩、メタリン酸、ポリリン酸、ピロリン酸などの無機リンで、肉や魚、卵に含まれる有機リンに比べ体内に吸収されやすいのが特徴です。
ですから肉や魚を控えていても加工食品を食べていると血清リン値が高くなることがあります。魚肉練り製品、ハムなどの食品添加物のリンは、「ゆでこぼし」によって少し減らすことができます。インスタントラーメンを食べるときはスープと麺は別々に作り、麺のゆで汁をスープに使わないようにしたり、ウインナーやハムは焼くよりも小さく切って茹でると、リンを減らすことができます。

Q:腎臓病の食事療法をしているとアルコール類は絶対にダメですか?

アルコールが慢性腎臓病(CKD)を悪化させるとの報告はこれまでありません。ただし、飲酒のときには、ついつい塩分の多いおつまみや料理を食べがちになりますね。塩分の摂り過ぎは、慢性腎臓病を悪化させる原因となります。
毎日は飲まないようにするなど、塩分を減らす工夫をしましょう。飲むときの一般的な適正飲酒量であるアルコール(エタノール)量は、

男性は20~ 30 m L/day(日本酒 1合)以下
女性は10~ 20 mL /day 以下 です。

Q:チーズ、牛乳、ヨーグルトを食べてしまって、どうしたらいいでしょう?

たたんぱく質制限しているのに、チーズ、牛乳、ヨーグルトを食べてしまったと後悔しているのですね。確かにたんぱく質の多い食品です。でもこれらの食品には良質のたんぱく質が含まれますので、けっして食べてはダメな食品ではありません。後悔している理由はこれらの食品にどれくらいたんぱく質が含まれているか、判らないからではありませんか?
食品成分表でたんぱく質量を調べ、プロセスチーズよりクリームチーズにするとか、牛乳やヨーグルトを食べたら、卵や豆腐を控えるなどしてはいかがでしょうか?無料で簡単に栄養価計算ができるサイトもあるので、受診病院の管理栄養士に聞いてみてください。

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