腎臓教室 Vol.111(2020年6月号)

〜腎臓のアンチエイジング〜
腎臓リハビリテーション

生きとし生けるものには加齢や老化があります。老化を遅らせたり、他で補ったりすることがアンチエイジングです。外見のエイジングとともに腎臓も歳をとります。腎臓のアンチエイジングで健康寿命を延ばすことができるのです。いつまでも元気に過ごすためにすぐ始めたい、腎臓リハビリテーションについてご紹介いただきました。

東北医科薬科大学 腎臓内分泌内科教授 森建文先生

1.腎臓が歳をとるってどういうこと?

 腎臓は血液から毒素を分別し尿に出して身体を浄化する作用があります。生まれたときには1分間に100ml程度の血液をきれいにする浄化能力がありますが、加齢とともに処理能力はおちてきます。腎臓のこの処理能力は血液中のクレアチニン値から推定でき糸球体濾過率(eGFR)といいます。eGFRは歳をとるごとに低下し、70歳位になると60ml/分位になってきます。eGFRが60ml/分未満か、何らかの尿所見や腎形態異常が3ヶ月以上続くと慢性腎臓病となります。さらにeGFRが10ml/分未満になると、透析や腎移植などの腎代替療法が必要になります。
 腎臓の機能が低下するとともに脳卒中や心筋梗塞などの心血管病が増えたり、すべての原因による死亡率が高くなることが示されています。尿たんぱくなどの腎臓疾患を疑う尿検査異常があるとさらに死亡率が増えます。すなわち全身と腎臓はともに歳をとっているのです。しかし腎臓の年齢が実際の年齢よりも早く歳をとっている場合があります。図1に腎臓の機能が低下していくごとの症状を示しますが、自覚症状が出にくいため、むくみなど腎代替療法が必要な時期になってはじめて病院に行かれる人も少なくありません。したがって腎臓の年齢を知るために、症状がない人でも年1回は健診をお勧めします。残念ながら一般的には慢性腎臓病になると腎機能は回復しにくいため、それ以上歳をとらないよう腎臓のアンチエイジング(リハビリテーション)で維持につとめることが重要です。

2.自分でも簡単にわかる、あなたの腎臓エイジング

 健診による検査は腎臓のエイジングを知るのに重要ですが、①血圧②体重③尿により普段から腎臓のエイジングを見極めることができます。家で測定する家庭血圧では135/85mmHg以上は高血圧の可能性があります。ここで重要なのはただ血圧が高いとか低いとかだけでなく、もとの値から血圧の変動がどの程度あったか、朝起きてすぐの血圧と夕方の血圧の差が重要です。夕方の血圧に比べ朝の血圧が高くなってきた場合には一度病院を受診し、腎機能が悪くなっていないか検査を受けることをお勧めします。次に体重が1か月以内で2㎏以上増加した場合や、足のすねを押して指の形が残る場合にはむくみが疑われます。尿の回数、尿量および性状も有用です。健常者の1日の尿量が1500ml~2000ml程度ですので、1000ml未満や2500ml以上の場合は異常の可能性があります。加齢による膀胱の機能異常では少量で頻回に夜間トイレにいきますが、腎機能障害でも夜間のトイレ回数が増えるとともに毎回しっかり尿が出ます。夜間尿が1日の尿量の3分の1以上出る場合は異常な可能性があります。尿の異常な泡立ちも尿たんぱくの可能性があり、薬局で販売されている簡易的な尿試験紙で確認も可能です。これらの異常が見られた場合、一度病院で検査をお勧めします。

3.腎臓のアンチエイジングで健康寿命が延びる ~腎臓リハビリテーション~

 腎臓は尿を生成し老廃物を体外に出すほかに、血圧、体液量、骨量、血液量および栄養の調節をおこなっています。腎臓が悪くなると脳卒中や骨折が増えたり、貧血や栄養状態が悪化し、健康寿命は短くなってしまいます。健康寿命を増やすためのアンチエイジングには、食事や運動などの生活習慣改善を中心とした腎臓リハビリテーションが推奨されています。
 表1に腎臓リハビリテーションをもとにした慢性腎臓病予防10か条を示します。肥満やむくみ管理のために体重の測定は重要です。体重が測定できない場合は腹囲などの測定も有効です。家庭血圧による血圧管理は上述の通りです。食事による栄養管理も重要で、適度なエ場合がありますので、管理栄養士さんのいる病院を受診した際には栄養指導を受けてみるとよいでしょう。また、歯を大事にしましょう。噛むことにより食べ物は消化されますし、免疫力や多くの疾患予防につながることが知られています。強いいびきのある方は睡眠時無呼吸症候群の可能性があり、腎機能にも影響しますので、病院を受診し、検査・治療を受けましょう。筋肉量を維持し、臓器保護のためコール量は純アルコール換算30mlまでにし、毎日飲まないようにすることが大切です。痛み止めなど腎臓に負担のかかるお薬はできる限り避けるのが無難ですが、やむを得ない場合は腎機能に応じて主治医と相談してください。2. で述べたとおり尿はとても大切で健診により己の状態を知り腎臓のエイジングを知ることが重要です。
 私が教鞭をとる東北医科薬科大学がある仙台は、おしゃれと独眼竜で有名な仙台藩主伊達政宗公のお膝元でもあります。政宗公は、適度な飲水、脈を毎日とり、食事に気を使い間食をせず、鷹狩りや竹割などの運動をしていたそうです。現代におきかえるなら、適度な飲水で腎臓の負担を減らし、家庭血圧をつけ、適切な生活習慣の腎臓リハビリテーションに相当するでしょう。そのためか当時の武将としては長寿の70歳位まで生きられました。我々も政宗公にならっておしゃれに健康長寿を続けたいですね。

 表1:腎臓リハビリテーションによる慢性腎臓病予防10
1. 体重、BMI、腹囲 体重を管理する。肥満だけでなく、むくんでいる場合もあるから注意。適度な脂肪も必要
2. 血圧 家庭血圧計で厳重に管理
3. 食事・適度な塩分水分糖分 食事を意識する、歯を大事に
4. いびきに注意 睡眠時無呼吸症候群に注意
5. 適度の運動 適度に筋肉量を維持、有酸素運
6. 禁煙 絶対に吸わない
7. アルコールは適量 毎日飲まない
8. 腎臓にやさしいお薬 痛み止めは特に注意、医師と相談
9. 尿 尿は語る、できれば尿検査、尿量、尿の性状を確認
10. 検診を受ける習慣 己を知る、これが大切

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