腎臓教室 Vol.114(2020年12月号)

~歯周病と慢性腎臓病(CKD)の関係~
歯周病予防で腎臓を守ろう

歯周病は、糖尿病、認知症など全身の健康に大きな影響を与え、近年、慢性腎臓病(CKD)にも大きな関わりがあることがわかってきました。CKDの患者さんは、CKDでない患者さんに比べて歯周病になっている率が高く、歯周病の炎症面積が大きいと、腎機能の低下が進むという報告もあります。CKDの患者さんの歯科治療が腎機能の改善にも役立つ可能性があり、注目を集めています。

赤羽もり内科・腎臓内科 院長 森 維久郎 先生

1.腎臓の役割と腎臓病のメカニズム

 腎臓の主な役割として、血液を濾過して不要なものを尿として体の外に排泄するという機能があります。それだけでなく、血圧の調整、ミネラルの調整、骨を強くする、血液を作るなど多岐にわたる役割を担います。慢性腎臓病(CKD)では、これらの役割の機能が落ちるため、腎臓だけでなく全身のいたる箇所に影響を与えます。
 腎機能が低下すると、フィルターのような役割を果たす糸球体や尿細管という場所に障害が起きます。その背景には、主に高血圧、糖尿病などの生活習慣病が原因となっていることが多く、血圧と血糖値を治療することによって腎機能の低下を防ぐことができます。

2.歯周病も腎機能を低下させる

 今回のテーマである歯周病は、血圧と血糖値のコントロールにも影響を与えます。そのため従来の血圧と血糖値の治療に加えて、さらなるステップアップの治療として歯の治療が注目を集めています。
 歯周病は、歯と歯肉の境目に細菌がたまり炎症が起きる病気です。P.gingivalis(ジンジバリス)という菌をはじめとした歯周病菌が歯茎の毛細血管から、血管に侵入して全身の血管を障害します。特に内皮細胞 ないひさいぼう と呼ばれる細胞への障害は、動脈硬化を引き起こしたり、腎機能障害に関わる可能性があるといわれています。

3.腎臓病・糖尿病に期待される歯科治療

 日本で透析が必要になる患者さんの約4割強が、糖尿病が原因で腎機能が低下しているといわれており、糖尿病がある腎臓病の患者さんでは積極的な血糖の治療が必要になります。具体的に、HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)値を1.0%低下させることによって、腎症の発症を21%減らすという報告があり、HbA1c値7.0%以下にすることを目指すことが多いです。(年齢によってはHbA1c7.5%、HbA1c8.0%以下を目指すこともあります。)
 歯周病があると血糖値を下げるインスリンというホルモンが効きづらくなり、血糖コントロールの状態が悪くなる可能性があります。過去の報告では、2型糖尿病患者では、糖尿病ではない患者さんに比べて歯周病の発症率が約2.6倍高くなるという報告や、血糖コントロールが不良であればあるほど歯周病が進行するという報告など歯周病と糖尿病の関連の報告がされています。そして糖尿病の患者さんで、歯科治療をおこなうことでHbA1cの値が約0.5%下がったという報告もあります。(これは糖尿病のお薬 0.5~1錠分の効果に相当します。)そのため、糖尿病の患者さんでは、より歯科治療が重要といえるでしょう。

4.腎臓病や歯周病による全身への影響

 CKDの患者さんは、CKDでない患者さんと比較して、心不全や脳卒中になるリスクが数倍に上がるといわれています。加えて、認知症のリスクが上がる可能性も指摘されています。そのため、腎臓だけでなく、心臓や脳への影響にも注意することが非常に大切です。
 歯周病になると、より動脈硬化が進み、心臓や脳の病気が起きる可能性が更に高まるので、歯をしっかり治療をして、腎臓だけでなく全身の臓器への悪い影響を減らしていく必要があります。他にも、歯周病は脳卒中、心筋梗塞、認知症、誤嚥性肺炎など全身の臓器に影響を与えます。

5.丁寧な歯磨きと定期的な歯科受診を

 毎日の歯磨きは、歯ブラシに加えて歯間ブラシやデンタルフロス(糸ようじ)などを使い、歯の表面だけでなく、歯と歯、歯と歯茎の間(歯周ポケット)も丁寧に磨くのがポイントです。
 また定期的な歯科の受診をお勧めします。歯周病菌は歯周ポケットの奥深くに潜み、歯科の専門用具を使って歯垢・歯石を掘り出しながら除去するのが望ましいとされているためです。歯科を受診する際は、CKDの治療をしていることを伝えるとよいでしょう。
 当院では近隣の歯科医院と協力して、歯周病の治療をおこなった患者さんの経過を観察していますが、実際に歯科治療を始めてから尿たんぱくが減少した患者さんもいらっしゃいます。まだ、歯科治療が直接的に腎機能を改善するということではありませんが、少しずつ効果的な報告がでてきており、治療法のひとつとして注目されつつあります。
 CKDの治療は毎日の積み重ねが大切です。あまり関係ないと思って、ないがしろにされがちな歯の手入れですが、丁寧にしっかりとおこない、自分の腎臓はもとより、からだ全体を守っていきましょう。

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