腎臓教室 Vol.118(2021年10月号)

腎移植に備える

慢性腎臓病で保存期の療養生活を続け、やがて医師から「そろそろ透析導入を考えましょう」と言われると、頭が真っ白になって何も考えられなくなる方が多いようです。腎代替療法には、血液透析、腹膜透析、腎移植がありますが、血液透析の話しか聞かされなかったという体験談も聞きます。最近では、腎代替療法が必要になった時には、いずれの選択肢についても患者さんに説明する取り組みが進められています。「腎移植」について、きちんと知って、選択肢の1つとして備えておきましょう。

監修:相川 厚 先生
東邦大学名誉教授/医療法人社団新友会常務理事/田口会理事

腎移植の種類

 腎移植には生体腎移植と献腎移植の2種類あり、あわせて年間約2,000例の腎移植がおこなわれています。腎移植を受けることができて順調な経過をたどれば、免疫抑制剤を服用する以外は、生命予後もよく、社会復帰やQOLの高い生活ができるようになります。
 最近は、透析前に腎移植をおこなう先行的腎移植:PEKT(Preemptive kidney transplantation)も増えていますので、透析を導入したら腎移植を考えようというのではなく、GFR(糸球体ろ過量)が15~30ml/min/1.73㎡になって、そろそろ透析導入という話が出たら、先行的腎移植についても主治医と相談したり、移植施設への受診や移植希望登録をするなど、早めに備えておくとよいでしょう。

腎臓教室Vol.118

 親族から腎臓の提供を受ける移植です。腎移植全体の約9割を占めています。ドナーは健康であることが必要で、その健康な方にメスを入れるので、お互いの自発的な意思の確認や慎重な全身精査を進める必要があるため、移植に向けた準備には通常半年以上かかります。わが国では、夫婦間移植が一番多く、その次が親から子への移植です。血液型の違う移植も約3割おこなわれています。

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 亡くなった方から提供された腎臓を移植します。現在、(公社)日本臓器移植ネットワーク(JOT)には約13,000人の患者さんが献腎移植を希望して登録しています。ただ、亡くなった方からのご提供が少ないため、登録から移植までの平均待機時間は約15年です。透析を導入する前、GFRが15ml/min/1.73㎡の状況で登録できるので、早めに登録をしておいて、腹膜透析で尿量を確保しながら待機したり、血液透析で移植の機会を待つことも選択肢の1つになります。
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ドナーとレシピエント

 腎移植は、善意による提供がなければ成り立たないので、提供していただく方(ドナー)と、いただいた腎臓を長く生着させるための移植者(レシピエント)としての条件が定められています。

ドナーの条件

 生体腎ドナーの条件は基本条件として原則、6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族に限定されています。さらに以下のような条件があります。

自己意思による提供であること
身体的、心理的、社会的背景などの評価を精神科医など第三者によっても実施されること

基準
年齢:20歳以上70歳以下(80歳以下でも可能)
たんぱく尿150mg/日未満
血圧:140/90mmHg未満
糖尿病がないこと
肥満がないこと
全身性活動性感染症、HIV抗体陽性、クロイツフェルト・ヤコブ病、悪性腫瘍がないこと
GFRは80ml/min/1.73㎡以上(70以上でも可)

★献腎ドナーは小児からでも可能で、医学的条件もほぼ同じです。小児の献腎は小児のレシピエントに優先されます。


レシピエントの適応基準

 レシピエントとしての適応基準は以下のように定められています。

保存期腎も含めて末期腎不全であること
全身感染症がないこと
活動性肝炎がないこと
悪性腫瘍がないこと
 さらに移植後も免疫抑制薬を服用し続けられる状態にあるかという点も重要です。

腎移植ができない方

  腎移植を希望しても以下の方は移植禁忌とされ移植はできません。

心肺機能が著しく低下している方
著しい全身動脈硬化を呈している方
全身衰弱を呈している方
結核などの活動性感染に罹患している方
ドナーHLA抗体 強陽性で治療しても抗体除去できない方
精神疾患などで治療が理解できない方

腎移植手術

ドナー側

 生体腎移植のドナー側の手術では、全身麻酔下で2つある健常な腎臓のうちどちらか1つを摘出します。現在は負担の少ない内視鏡手術が一般的です。術後1週間くらいで退院でき、術前と同様の生活が可能です。ただ、ドナー側も腎臓が1つになるので、十分な健康管理と定期的な検査が必要です。


レシピエント側

 手術は全身麻酔下でおこなわれます。成人の場合は自身の腎臓を摘出することはなく、体内に残し、移植される腎臓を骨盤内に置くので、ほとんどの方は腎臓を3つ持つことになります。血流が再開した後、生体腎移植の場合は数分後に尿が作られるのが一般的です。献腎移植では、心停止で腎臓が提供される場合や腎臓への血流を止めている時間が長い場合には、移植腎から尿が生成されるのに数日から数週間かかる場合もあります。


【献腎移植の希望登録について】
 透析または通院している施設の主治医に相談し、移植を希望する施設を選んで受診します。採血して、移植施設からJOTに登録申請をおこない、患者さんから新規登録料(3万円)を入金するなど必要な手続きがすべて完了すれば登録待機となります。登録後は1年に1回の移植施設受診・診察と登録の更新が必要になります。腎臓提供があれば、血液型、HLA適合度や待機年数、年齢や地理的条件などの基準に沿って移植患者さんが選定されます。善意によるご提供を受けて移植を受けるので、禁煙や肥満対策、適正な服薬や日頃の体調管理をきちんとおこなって備えておき、移植後の体調管理はもちろん臓器提供者への感謝の気持ちが大切です。

コラム

健康な家族を傷つけない、亡くなった方からの献腎移植が理想的ですが、待機期間が長いため、腎臓を提供したい家族がいる場合は生体腎移植を検討します。
主治医や家族と早めに相談し、きちんと考えて、腎代替療法の選択肢の1つである腎移植に備えておきましょう。

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