腎臓教室 Vol.123(2023年1月号)

認知症の腎臓病患者さんの治療とケアについて

監修:西村 勝治先生
東京女子医科大学病院 神経精神科 教授

はじめに

 近年、日本では急速に高齢化が進んでいます。慢性腎臓病の患者さんも例外ではありません。2019年の統計では透析を受けている患者さんの平均年齢は69歳、透析が開始となった患者さんの平均年齢も70歳を超えました。

慢性腎臓病の患者さんは一般の方と比較して認知症を発症する割合が高いことが知られています。認知症と軽度認知障害(認知症の前段階の状態)をあわせると、慢性腎臓病の患者さんの10~40%、血液透析を受けている患者さんの30~60%がこれらに相当すると言われています。

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認知症ってどういう病気?

 認知機能(頭の働き)が低下し、日常生活や社会生活に支障をきたす状態のことを認知症といいます。認知機能には記憶力、判断力、実行機能(段取りをとって行動する能力、例えば料理をする)、視空間認知機能(位置関係を正しく認識する能力、例えば迷子にならずに散歩できる)などが含まれます。これらの認知機能の障害は認知症の中核症状と呼ばれ、どの患者さんでも必ず起こります。一方、患者さんによっては行動上の問題(徘徊、暴言・暴力・攻撃性、介護への抵抗)や心理的な症状(抑うつ、不安、不眠、妄想、幻覚)が生じることがあり、認知症の行動・心理症状(BPSD)と呼ばれます。
 認知症は1つの病気ではなく、色々な原因によって起こります。もっとも多いのはアルツハイマー型認知症であり、脳に異常なたんぱく質(たうたんぱく質といいます)が少しづつ溜まり、脳の神経細胞が減っていきます。症状はゆっくりと年月をかけて進行していきます。次に多いのが脳血管性認知症で、脳卒中や動脈硬化が原因となって生じます。慢性腎臓病の患者さんにはこのアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症が生じやすいと言われています。いずれも根治させることができる治療薬はなく、だんだんと進行し、基本的には元に戻ることはありません。
 ここで注意しなければいけないのが、治療できる認知症があることです。例えば、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、てんかん、電解質(ナトリウムなど)の異常、ビタミンB群の欠乏症、お薬(特に安定剤や睡眠薬)などが原因となって生じる認知症です。これらに対しては適切に治療をおこない、お薬だと中止することで認知症の症状も良くなります。慢性腎臓病の患者さんの場合、お薬によっては成分が尿といっしょに体の外に出ていかず、体の中に溜まってしまい、認知機能を低下させてしまうことがあるので要注意です。また、尿毒症も透析をおこなうことで良くなります。

認知症かな?と思った時

 認知症の症状がでてきた時、まず大事なことは治療できる認知症の原因が隠れていないかを調べてもらうことです。腎臓病のかかりつけの先生に相談することで、例えば原因となるお薬などをチェックしてくれると思います。解決しなければ「ものわすれ外来」などの認知症の専門外来を紹介していただくのがよいと思います。専門外来には、症状が重くなってからではなく、軽いうちに早めに相談されることをお勧めします。

認知症の治療とケア

お薬を用いた治療

 ここでは認知症のうち、最も多いアルツハイマー型認知症の治療について紹介します。残念ながら、現段階では根治することができるお薬はありません。しかし認知症の進行を遅らせることで、少しでも長く良い状態を保つことを目的としたお薬はあります。症状が軽いうちに治療を始めるのがよいとされるのはこのためです。
 これらのお薬は抗認知症薬と呼ばれており、日本では4種類が用いられています。コリンエステラーゼ阻害薬という仲間のドネペジル(製品名:アリセプト®、以下同)、ガランタミン(レミニール®)、リバスチグミン(イクセロン®、リバスタ®、いずれも貼付剤です)、それにNMDA受容体拮抗薬のメマンチン(メマリー®)です。これらのうち、腎臓病の患者さんで気を付けなければならないのはガランタミンとメマンチンです。メマンチンは透析を受けている患者さんでは半分の量にします。ガランタミンは重い腎臓病の患者さんや透析を受けている患者さんには使用を控えます。

 一方、BPSDに対しては精神安定剤などが使用されますが、副作用が出ることも少なくありません。このため、まずはお薬以外の治療やケアを工夫し、それでも効果が得られない時や、症状が重く、患者さん自身やご家族に負担が大きい場合にお薬による治療がおこなわれます。ただ、漢方薬など副作用の少ないものもありますので、専門外来で相談されるとよいでしょう。

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お薬以外の治療やケア

 認知症を予防し、たとえ発症しても認知症を進行させないために大事なことが3つあります。1つは運動です。特に運動に頭の体操を組み合わせるとよいと言われています(例えば、尻取りをしながら歩くなど)。2つ目は食生活です。いわゆるメタボリック症候群にならないような食事です。3つ目は人づきあいです。色々な人と交流を持ち、たくさん話し、笑い、いっしょに活動することです。

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 BPSDに対しては周囲の人の対応の仕方を工夫することがとても有効と言われています。患者さんは記憶が失われ、過去、未来から切り離され、不安になったり、いらいらしたりします。

そういう心理を推測し、自尊心を傷つけないような関わり方をすることで患者さんは安心し、BPSDも軽くなります。例えば、食事をしたことを忘れてしまい、繰り返しいらいらして「ごはんはまだ?」と訴える患者さんに、「さっき食べたばかりでしょ!」ではなく、「おなかすいたのね。好きな食べ物は?」と返すなど、ちょっとした声かけや態度を工夫することで患者さんの気持ちは落ち着くことが多いです。

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コラム

ご家族へのメッセージ
認知症のある腎臓病患者さんとの生活や治療に関する悩みを多く聴きます。患者さんご本人にも不安があります。お互いに思いやり、お薬や運動、食事、コミュニケーションなどさまざまな工夫をして、共に健やかに過ごせるように心がけましょう。

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