腎臓教室 Vol.126(2023年10月号)

慢性腎臓病患者さんのお薬との上手な付き合い方

 高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病はCKD(慢性腎臓病)を引き起こす要因の一つであるとともに、脳卒中や心筋梗塞のようなCVD(心血管疾患)を引き起こす要因でもあります。また、腎臓の機能が低下すること自体がCVDを引き起こす要因となるため、生活習慣病はCKDだけでなくCVDにも影響を及ぼし、悪循環を生み出してしまいます。その悪循環を断つためには、基本となる食事療法や適度な運動による生活習慣の改善に加え、病状に合わせた薬物療法を適正におこなうことが大切です。

監修:藤井 恵先生
大阪大学医学部附属病院 薬剤部

薬物治療について

 腎臓の機能が低下し末期腎不全の状態になると、やがて透析や腎臓移植が必要になる可能性が高くなります。一度、腎臓の機能が低下すると元の状態に戻すことは難しいですが、薬物治療により透析や腎臓移植に至るまでのスピードを遅らせることが可能です。CKDは生活習慣病と密接に関係しているため、CKDにより現れる症状や合併症に対して治療薬を使用するだけでなく、CKDを引き起こす要因となっている生活習慣病に対しても使用します。そのため、さまざまな種類の薬剤を服用する可能性がありますので、ご自身の薬剤情報を把握し、お薬をきちんと服用することが重要です。

腎臓教室Vol.126

 お薬には効果の他に副作用もあります。副作用かもしれないと思う症状があればメモをし、早めに医師や薬剤師に相談しましょう。

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治療薬の例

服薬について

 お薬の飲み忘れがCKDの悪化に影響を与えるというデータ(表1)があります。そのため、お薬を医師の指示通りに服用し、飲み忘れないことが大切です。飲み忘れたり、1日2食になったりして飲まなかった時の対処法は確認し、仕事や外出先での昼の服用等特定のタイミングでの飲み忘れが多い場合は医師や薬剤師に相談しましょう。

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 お薬の服用には適切なタイミングと時間が指示されています。起床時、食間、寝る前、さらに食前、食直前などきちんと指示を守って服用しましょう。

起床時 起床時の空腹時。朝食との間隔に注意が必要
食間 食事と食事の間の空腹時。
目安は食後の約2~3時間後
寝る前 就寝の30分~1時間以内
食前 食事の20~30分前
食直前 食前 5~10分以内
食直後 食後 5~10分以内
食後 食後 20~30分以内

薬の管理方法

 お薬管理の例として、お薬カレンダーやピルケース、小袋などを用いて服用するタイミングごとにお薬をセットしたり、お薬のシート本体に日付を書くなどが挙げられます。薬の種類が多く飲み間違いが多い場合は、飲むタイミングが同じ薬を薬局などで1回分ずつ1袋にまとめる「一包化」もおすすめです。一包化は医師の指示が必要になるので、ご希望の場合は医師や薬剤師にご相談ください。
 また、高温多湿の場所での保存は避け、以前に処方された古い薬の服用や症状が治まったからといって勝手に服薬を中止しないようにしましょう。

お薬手帳について

 最近はスマートフォンのお薬手帳アプリを使用される方も増えてきている印象を受けます。また、お薬手帳は持っていても家に置きっぱなしにしている方もいらっしゃいますが、有効に活用するために是非携帯してください。複数の病院から薬を処方されている場合、薬剤師は薬が重複して処方されていないか、飲み合わせは問題ないかを確認するためにお薬手帳を活用しています。特に、CKDの患者さんでは血液検査の結果によりP(リン)やCa(カルシウム)を下げる薬、尿酸値を下げる薬など細かく薬剤調整がされています。さらに、透析が導入されれば薬が変更となることがあるため、今飲んでいるお薬の飲み方が正しいか確認する必要があります。
 また、災害時などに患者さんの薬剤情報を医療機関が取得できない時に、患者さんがお持ちのお薬手帳が有用な情報源となります。仮に、いつも飲んでいる薬と全く同じものが用意できなかったとしても、アレルギーや副作用歴のあるものを避けて同じような効果のある薬を処方してもらうことができるため安心です。

健康食品やサプリメント、市販薬を購入する際に注意すること

 健康食品やサプリメントなどご自身で購入できるものは病院から処方される薬と違い、多種多様な成分が含まれていることが多く、注意が必要です。例えば、Mg(マグネシウム)を含む便秘薬やビタミンDやCa(カルシウム)を含む健康食品などは腎臓の機能が低下していると体より排泄されず溜まることで思わぬ副作用が起こる可能性があります。他にも、総合感冒薬や解熱鎮痛剤等に含まれる痛み止めの成分によっては腎臓に負担をかけるものがあります。そのため、市販薬を購入する際はご自身が飲んでいる薬がわかるお薬手帳やお薬説明書を持参し、腎臓の機能が低下していることをドラッグストアや薬局の薬剤師に伝えることをおすすめします。

コラム

腎臓が悪いとわかったら、生活習慣の改善と適正な薬物療法の指示を守りましょう。飲み忘れを防ぐ対策や対応を知っておき、お薬の知識も身につけましょう。お薬手帳を携帯し、腎臓や他の薬剤に影響するお薬の処方について薬剤師に確認してもらうことが大切です。

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