腎臓教室 Vol.133(2025年7月号)
保存期から始めるフットケア
~自分の足をしっかり最後まで守るために~
監修:愛甲 美穂 先生
湘南鎌倉総合病院 腎臓病総合医療センター 血液浄化室 看護部 腎臓病療養指導士
腎臓病と足のトラブル
糖尿病を原疾患とする腎臓病が増加しており、足のトラブルというと、糖尿病の合併症である動脈硬化による足の壊疽や血流が悪化する下肢抹消動脈疾患(LEAD)を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。当施設の調査では、透析者の4割が、LEADを合併していて腎機能低下の初期から動脈硬化が進行していることがわかっています。
今回は、慢性腎臓病の患者さんが、足を健康に保ちながら未来へと歩み続けるためのケア方法をご紹介します。日常のちょっとした工夫で、足のトラブルを予防し、快適な生活を送るためのヒントをお届けします。
年々透析者の高齢化が進んでいるため、足のトラブルはLEADだけではありません。透析者の筋肉量の減少、低栄養、運動機能の低下などフレイル・サルコペニア*は大きな問題で、透析を導入する段階で3人に1人は運動機能が低下したフレイルという状態であると言われています。
*フレイル・サルコペニア:フレイル「衰弱」、サルコペニア「加齢による筋肉量の減少」。健康寿命を延ばすために注目されている言葉です。
スキントラブル
腎臓病が進行すると皮膚にも影響が出ることがあります。例えば痒みや乾燥、むくみなど腎機能の低下から体内の老廃物の蓄積が皮膚に影響を与えているのです。
命に関わることが少ないため軽視されがちです。しかしながら、痒さによる引っかき傷から感染し蜂窩織炎(ぼうかしきえん)などの重篤な感染症の危険もあります。また皮膚乾燥は、皮膚のバリア機能が低下し水虫に感染しやすくなり、未治療のまま長期に経過することで、爪水虫(爪白癬)へ進行していきます。爪白癬により厚くなった爪に難渋してケアできないまま放置されているケースも多くみられます。

爪の障害は、歩行機能に支障をきたし、全身の身体機能を低下させるなどフレイル・サルコペニアの原因の一つとも考えられています。
75歳以上の方を対象とした筆者の調査でも、白癬に感染している方は皮膚乾燥が強く、日常生活における活動度が低いという結果になりました。
また、見た目は皮膚乾燥がなく、正常な皮膚のように見えていても、角層水分量という皮膚乾燥を表す数値で見ると約9割の方が皮膚乾燥の状態にありました。保湿を取り入れたスキンケアは、足を守る第一歩です。無理なく続けられるフットケアを今日から実践していきましょう。

今日から始めるフットケア
フットケアは大切ですが、難しいと感じるケアに挑戦して負担になってしまい、続けられないケアでは意味がありません。自分でできることや続けることが大切になります。
見えないのに爪を切る、体調が悪いのに入浴をする、体調が悪いのに足を洗うなどの無理はしないで、体調に合わせてケアをおこないましょう。
これだけは、毎日してほしいフットケア
これだけは、毎日してほしいフットケアがあります。それは、観察することです。足の腫れているところはないか、傷はないか、出血や浸出液などがないか、朝に靴下を履く時や寝る前など、観察するタイミングを決めて習慣にするとよいでしょう。
見えにくい方は、手で触れて、異常がないか確認をしてください。
痛みに対して鈍くなっていることや、視力低下などで発見が遅れてしまうことがないように、必ず毎日観察をしていくことがとても大切です。そして少しでも気になる時は、必ず診察を受けてください。洗浄したり保湿したりすることだけがフットケアではありません。観察して異常を早期に医療者へお話しすること、これがなにより重要なフットケアであることをどうか心にとめていただきたいと思います。
無理なく続けるスキンケア
腎臓病のスキンケアは、日々の負担を軽減しながら続けることが重要です。特に保湿効果の高い入浴剤を活用したケアは手軽で効果的な方法です。臨床研究で腎不全患者さんの皮膚乾燥を改善する効果が示され、4週間の使用で約半数の方が乾燥改善を経験している入浴剤も市販されています。クリームを毎日塗る負担を軽減しながら、継続的に皮膚ケアをおこなうことで、無理なく足の健康を守りましょう!

コラム
私自身透析医療に25年携わる中で、透析患者さんの大変さや前向きに頑張る姿に何度も励まされてきました。だからこそ、保存期からケアを始め、最期の時まで元気に歩ける足を守っていただきたいと思っています。