腎臓教室 Vol.70(2013年8月号)

夢ではない、「じんぞう再生医療」!

最近、話題の再生医療ですが、腎臓への取り組みも進められています。腎臓再生といっても、アプローチの違いでいくつかの方法がありますので、日々、診療とともに研究に励んでいらっしゃる専門の先生に解説していただきました。

東京慈恵会医科大学 腎臓・高血圧内科
主任教授 横尾 隆 先生

一部実現化、次世代の夢の治療法

 私の幼少時に、「人造人間キカイダー」という正義の味方のロボットが、悪の組織と戦うという子供向け娯楽番組がありました。このキカイダーは体の一部が壊れるとその部分だけ新しい部品に代えることで、いつでも新品同様(生まれたまま)の状態を維持できたのです。人間もこのように出来れば病気なんかなくなるのに、と幼心に思ったことをおぼえています。
 これこそが再生医療の根源であり、傷害を受けた組織、臓器を薬剤で何とか修復しようとするのでなく、新しいものを作って取り替えてしまおういう概念です。この作り話のような出来事が昨今の科学技術の進歩により“次世代の夢の治療法”として一部現実化してきています。特に京都大学山中伸弥教授のiPS細胞樹立によるノーベル賞受賞により、さらにこの分野の研究が加速することが期待されています。

腎臓を再生して、透析に代わる次世代の治療法を開発する

 この再生医学研究の中で最も遅れているとされているのが腎臓です。理由は構造が非常に複雑だからです。事実、現時点では腎臓を再生するのは不可能であるとあきらめられています。また研究者の間でも、これまで腎臓は透析によりとりあえずの延命が可能であるため、死亡に直結せず研究の緊急度、要求度が低いと認知されてきました。
 しかし現実には腎臓の問題は非常に深刻であり、患者さんの忍耐も医療経済も限界に近い状態にあります。このような現状を何とか救いたいと“腎臓を再生して透析に代わる次世代の治療法を開発する”という無謀ともいえる課題に挑戦しているグループがあります。その方法を4つ挙げてみましょう。

【1】 脱細胞腎臓を用いた腎臓再生

 摘出した臓器から細胞成分を全部洗い流して、骨格だけにした後に幹細胞を血管などから注入して再組織化する手法が、これまで心臓や肝臓で報告されていました。最近になり腎臓でも一部可能であろうという報告がでてきました。

【2】 iPS細胞を用いた腎臓再生

 患者さんの皮膚や血液の細胞から、体を作るすべての細胞に分化する能力を復活させた細胞(多能性幹細胞)を樹立する方法が山中教授の研究で明らかとなりました。この細胞はiPS細胞と呼ばれ、この細胞から腎臓を作る細胞への分化を誘導する取り組みがおこなわれています。これまで尿細管細胞の樹立等の成功が報告されています。

【3】 受精卵を用いた腎臓再生

 遺伝子操作により人工的に腎臓を欠失した動物の受精卵(未分化胚芽細胞)に患者さんからとった幹細胞を注入し、発生を継続させると、生まれてきた子供の腎臓は患者さん由来のものになります。これを患者さんに移植することにより腎臓を再生するというやり方です。  ただ、人工的に腎臓を欠失したヒトを作る訳にはいきませんので、他の動物(異種)の受精卵を使用することになります。異種の受精卵にヒトの幹細胞を注入することに対する倫理的な問題等があり、すぐには適応が難しそうです。

【4】 成長中の胎仔の腎臓作成プログラムを利用した腎臓再生

 これは実際に腎臓を作っている“発生中の胎仔に直接お願いする”という方法です。つまり患者さんの幹細胞を母親の子宮の中で成長中の胎仔の腎臓ができる部位で培養することで、腎臓になるためのプログラムを与え腎臓まで分化させる方法です。
 このシステムにより尿生成能やエリスロポエチン再生能を獲得した再生腎臓の樹立に成功しています。ブタを用いたヒトに応用可能な大きさの再生腎臓作成に向け研究が展開しています。

 これは、我々の目指す未来予想図です。
 まさか30年以上前に想像した「人造人間」でなく、「腎臓人間」を作ることになるとは夢にも思いませんでしたが、今後“世界初”“日本発”の成果として腎臓再生を現実化させていきたいと本気で考えています。倫理的な問題や臨床応用に向けた法整備を含め、まだまだ超えなければならない難題がいくつもありますが、日本の得意とする研究分野でもあり、産官学が一体となってこの問題に向き合っていきたいと思っております。
 是非皆様のご理解とご協力をお願いいたします。

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