腎臓教室 Vol.77(2014年10月号)

尿毒症とは?
症状を理解して、体調を把握しましょう!

稲城市立病院 腎臓内科(人工透析科)部長 河原崎 宏雄 先生

腎臓の働きについて

はじめに、腎臓という臓器は体内の恒常性(バランス)を調整する臓器です。体内に必要な物質は保持・産生し、体内に不要なものは排泄・分解することで、体を常に“一定の状態”に保っています。腎臓の多彩な働きを右に示します。その中の大事な働きのひとつが、腎臓内の多数の糸球体(しきゅうたい)による濾過(ろか)作用です。つまり、篩(ふるい)の役割を果たす腎臓の糸球体が、血液中の不要な老廃物や毒素を尿として体外に濾過・排泄します。これら腎臓で排泄される老廃物や毒素が尿毒症物質と呼ばれ、腎臓の濾過機能低下に伴って体内に蓄積するのです。これが尿毒症という状態です。

腎臓機能の評価

腎臓の濾過を糸球体濾過と呼びます。血清クレアチニン値から計算される推定糸球体濾過量(eGFR)は篩(ふるい)としての腎臓機能を表しています。正常が約100(ml/分/標準体表面積)で、わかりやすくなっています。たとえば、60歳男性が血清クレアチニン2.0mg/dlであれば、計算上のeGFRは約30となり、腎臓の排泄機能は正常の30%であると理解することができます。

腎臓機能と尿毒症物質

尿毒症物質は体内に蓄積しすぎると体内の恒常性が保てなくなり、尿毒症症状や心不全症状を発症します。普段の診療では測定することができない尿毒症物質が多数あり、実際には測定できないもののほうが多いくらいです。そのなかで参考になる血液検査のひとつが血清尿素窒素(BUN)値です。初期の段階の腎機能低下では尿毒症物質の蓄積が少量のために症状がでませんが、一定の腎機能を下回ると各種の他臓器に影響を与え、症状が現れるようになります。一般的には糸球体濾過量が10(正常状態の約10%)を下回ると自覚症状が出現し始めます。

尿毒症症状と心不全症状

代表的な尿毒症症状としては、吐き気や食欲低下などがあり、そのほかにも下記に示すように、多彩な症状がありますが、あまり特徴のない漠然とした症状であることが多いです。なかには、腎機能低下がゆっくりと進行し尿毒症物質が少しずつ蓄積されるために、自覚症状に乏しいことも珍しくありません。これらの尿毒症物質には、数年の間に蓄積してから臓器に影響を与える物質もあります。また、尿毒症物質には過剰な塩分や水分を含むこともあります。

塩分や水分の蓄積による全身のむくみを浮腫(ふしゅ)とか心不全と呼びます。浮腫は重力に伴って、立ったり座っているときは足などの下半身に、寝ているときは背中に出現します。その部分の皮膚をゆっくりと数秒押し続けると、すぐには元に戻らない陥凹ができることで気づくことがあります。この過剰な塩分・水分は胸の中(胸腔内(きょうくうない))にも蓄積し、肺が水浸しになることがあります。そのために肺から全身へと血液を送り出しきれなくなった、心臓の機能不全状態を心不全といい、これによる息苦しさや咳、喘鳴(喘息のようなゼーゼー)を心不全症状と呼びます。塩分・水分貯留の客観的な指標にするために、日ごろからご自身の血圧と体重の管理・把握が大切です。

尿毒症・心不全の治療

尿毒症の治療は、尿毒症物質を除去したり、あるいは補充するという、対処療法です。対処療法とは症状の原因・病態を治療対象とするのではなく、症状の緩和を主体とした治療で、吐き気に対する吐き気止め、呼吸困難に対する酸素療法などがあります。尿毒症物質の除去は透析療法でおこなわれます。徐々に進行した治ることがない不可逆性の腎不全であれば、そのまま腎代替療法(透析または腎移植)の継続が必要となります。腎臓が働かないことから起こる心不全は過剰な塩分・水分の蓄積であることから、利尿薬の増量や、透析で塩分・水分を除去します。その際には、体重の推移がいい治療目標になりえますので、把握しておきましょう。補充療法は不足した成分の補充であり、腎不全に伴う血清カルシウム値の低下に対するカルシウム補充や、造血ホルモンの不足による貧血の進行に対しては造血ホルモン注射をします。

最後に

透析療法開始のタイミングは、これらの尿毒症症状や、心不全症状が出現するころになりますが、症状の出現を待ちすぎて、全身状態が悪くなってからでは遅すぎます。適切なタイミングは患者さん自身の自己管理と体調把握、主治医の総合的判断との兼ね合いになりますので、尿毒症について、よく理解しておくことが大切でしょう。

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