腎臓教室 Vol.83(2015年10月号)

先行的献腎移植登録制度が変更 先行的腎移植:PEKT

2013年7月に始まった先行的献腎移植登録制度が見直され、成人の審査依頼が不要になりました。希望する人は献腎移植をおこなっている病院で登録基準を満たしていることを確認し、規定の申請用紙により登録手続きをおこなうだけでよくなりました。10月は移植月間ですから、これを機に先行的腎移植について考えてみましょう。

監修
相川 厚 先生 東邦大学医学部腎臓学講座 教授

先行的献腎移植登録とは

 先行的献腎移植登録とは、末期腎不全の人が透析を導入する前の保存期に献腎移植* の登録ができる制度です。審査を開始してから250件を超す審査依頼がありましたが、当初こそ登録基準に適合しない申請があったものの、最近ではほとんどが登録適合基準を満たすようになりました。献腎移植の待機期間は平均で15年以上と長期であることを考慮し、審査の見直しが検討され、今回の変更になったものです。

変更点(2015年8月1日より)

  • 成人例は先行的献腎移植登録審査委員会への審査依頼が不要となる。
  • 各施設の責任で登録基準に合致している事を確認後に、日本臓器移植ネットワークに直接申請する。
  • 小児例、膵腎同時移植、肝腎同時移植症例は従来通り審査依頼が必要。
  • 先行的献腎移植登録審査依頼の宛先アドレスが変更

*献腎移植

臓器の提供を受けておこなう移植で、善意(無償)で提供されるという意味で「献腎移植」と呼ばれています。日本臓器移植ネットワークに登録すると、適合率や待機年数、年齢、地理的条件などの基準にそって腎臓のあっせんがおこなわれます。現在の平均待機年数は15年です。

先行的腎移植:PEKTとは

 腎移植を考えている多くの人が、「透析を導入したら腎移植を考えよう」「腎移植は透析を経験してからでないとできない」と思っているようですが、腎移植は透析療法(血液透析:HD/腹膜透析:PD)と同時期に検討する腎臓の代わりとなる治療(腎代替療法)です。腎臓を提供してくれる人(ドナー)がいて、安全に手術がおこなえる状態であれば、透析を導入する前でも腎移植をすることができ、先行的腎移植:PEKT(Preemptive kidney transplantation)といわれます。欧米では以前からおこなわれており、日本でも最近では増加しています。

 PEKTは、透析を導入してから腎移植をするのと比べ、移植腎の生着率、生存率とも良いとされており(「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013」)、米国では移植前の透析期間が短いほど、移植後の生存率が良くなると報告されています。日本の透析医療は大変に質が高いため、米国の結果がそのまま当てはまるわけではありませんが、長期間の透析によって合併症や動脈硬化が進行してしまうと、移植の際に問題になることがあり、移植をするならば早いほうが良いと考えられています。

 このような背景から今回の先行的献腎移植登録制度の見直しがおこなわれたわけですが、現在の平均待機年数15年ということを考えると、献腎移植でのPEKTは非常に確立が低いといわざるを得ないでしょう。実際にPEKTの実施例のほとんどは生体腎移植*です。以前は母親から子供へ提供する割合が多かったのですが、最近では移植医療が進歩して、血液型が違っていても移植が可能になったり、年齢制限も引き上げられるなど、適応基準が広くなったため、老後を夫婦そろって楽しみたいと考える夫婦間でのPEKTが増えています。

*生体腎移植

 親、子、兄弟などの血縁者、または配偶者から腎臓の提供を受けておこなう腎移植です。腎臓の提供はあくまでも自発的な善意に基づくものでなくてはならず、臓器を提供したい人と移植を受けたい人の合意があり、医学的および倫理的に問題がなければ、移植医療機関でおこなうことができます。

PEKTを希望するときの注意点

 献腎移植、生体腎移植そのどちらでも、PEKTを希望する場合に注意しなければならないのは、早めの準備と体調管理です。

 献腎移植の場合は、いつ連絡がくるか分からないわけですから、待機期間中も年に一度は移植登録病院に通院し体の検査と情報収集を怠らないようにしましょう。その間に透析を導入することになったとしても、日本の透析医療は非常に優れているので、しっかりとした透析治療を継続し、体調管理を心がけることで、大事な機会を逃さないようにしましょう。

 生体腎移植でPEKTを希望する場合は、早い段階から準備を進めておくことが大切です。ドナーになってくれる人の十分な意志の確認や、移植施設の選定、移植手術前の検査、移植前にしか受けられないワクチン接種など、準備を始めるのは慢性腎臓病(CKD)ステージ3bまたは4(GFR15ml/min以上)の段階からといわれています。また残腎機能が低下し、どうしても移植前に透析を必要とする場合もでてきます。透析をしないことにこだわりすぎず、短期間でもしっかり透析を受けることは、安全に移植をおこなうために必要です。

 腎移植は末期腎不全の治療としてクオリティオブライフ(生活の質)が高い治療法であり、PEKTはより高い治療効果を望める治療だと考えられています。その効果を最大限に生かすためには、治療を受ける側の自己管理が大切なことはいうまでもありません。移植前からの綿密な準備、禁煙や肥満対策、薬をきちんと飲むなどの日頃の体調管理は、移植前も移植後も、より健康的に生活するための鍵を握っています。

一覧に戻る