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自分なりのペースで少しずつ・・・ 透析導入期のストレスを乗り越えるために

透析導入期の患者さんの心の変化と不安の乗り越え方についてなど、臨床心理士からのメッセージです 「導入期の患者さんの気持ち」、「透析を始める前後でのストレス」

中村菜々子 博士(人間科学) 兵庫教育大学発達心理臨床研究センター 准教授

専門分野:健康心理学、臨床心理学、コミュニティ心理学

大学院でカウンセラーの養成に関わり、大学附属のカウンセリングルームではカウンセラーとして勤務している。研究では、(1)様々な場面でのストレス・マネジメント、(2)心身の健康増進支援に心理学を役立てること、をテーマにしている。
2009年より文部科学省科学研究費の適用を受け、「末期腎不全患者の治療法選択・開始時の心理学的プロセスと情報提供ツールの開発」について研究を行っている。
URL:http://www.edu.hyogo-u.ac.jp/hcenter/index.html

中村菜々子 博士(人間科学)

 

 「いずれ透析ですよ」と言われてから透析を開始するまでには、様々なストレスを経験する可能性があります。ストレスへの透析患者さんの反応には、ショック、現実を認めたくない気持ち、混乱、不安や落ち込み、などを経て、現実を直視し、できることを考えていく、などの要素があることが知られています。これらは順番に生じることもあれば、どこかにとどまることや行きつ戻りつを繰り返すこともあります。そして期間としては、数カ月から数年、あるいは一生を通じてゆっくり生じる場合もあると言われています。
 まず、誰でも、透析をしなければならないと言われると、強いショックを受けます。「自覚症状がなかったので、信じられなかった」、「医者から何か言われたが、その時のことは、あまり覚えていない」という方もいます。
 強いショックを受けると人はたいてい、現実を認めたくない気持ちになります。「透析が必要なんて、何かの間違いだ」、「自分の腎臓はそんなに悪くない」、「医療者の指示通りの生活なんて無理だ」などです。
 その時には様々な感情※が生じます。今後についての不安や、気持ちの落ち込み、集中力・決断力・やる気の低下、不眠などの症状が現れ、日常生活に支障が生じることもあります。また、「どうして自分が透析をしなければならないのか」という怒りや、「何をやっても無駄だ」という絶望が強まることもあります。さらに、周囲の人との関係で、「自分の苦しみはわかってもらえない」と、疎外感や孤立感を感じることもあります。

※ 精神症状がすべて心理的ストレスから生じるわけではありません。

 ショック、混乱、落ち込みや不安などは誰もが経験することですが、一方で人間には、困難を乗り越え適応しようとする力があります。①自分の苦境に対処する方法を考える(病気の情報を集める、仕事や家庭のことに現実的に対応するなど)、②治療法の肯定的な側面や生活の前向きな側面にある程度、目を向けられる、③各種の活動が再開する、などです。この際、ショックやつらさがゼロになることは少なく、何らかつらさを抱えつつ、少しずつ考え方や行動の工夫を見出していくという感じになることが多いようです。患者さんご自身が行っている工夫の例は[表1]をご覧ください。
 この文章を読んでいる皆さんは、今まで、どのような気持ちの変化を経験なさったでしょうか。この文章を読んでいる、ということは、透析や自分の身体のことに向き合おうと思われたのかもしれません。先述のように、ショックやつらさ、認めたくない気持ち、あるいはあきらめたり投げ出したくなる気持ちになることは多くの患者さんに生じる、人の心の自然な働きです。一般的な心の変化について知識を持った上で、自分なりのプロセスを大切に、自分なりのペースで、少しずつストレスと向き合い、行きつ戻りつしながら、少しずつ治療法や生活上の肯定的な側面も見出していくことが大切なのではないでしょうか。なお、ストレスが強い場合や長く続く場合は専門家の支援が役立つこともありますので、その場合は主治医にご相談ください。
 また、治療法の良い面、ましな面、助かる面というのは、実際に透析を始めてみないとわかりにくいものです。実際の患者さんが挙げた透析療法の良い面の例を[表2]に挙げますので、何らかの参考にしていただければ幸いです。

[表1] 透析患者さんの工夫の例(参考文献Cなどを参考に筆者が作成)
行動や考え方の工夫の例

・病気に対して、ある程度冷静さを保とうとする
・病気について調べる
・自分の病気を違う角度から眺める
・問題を客観的にながめる
・自分の病気に役立つような過去の経験を引き出す
・自分が病気であることの意味を見出そうとする
・物事がうまくいっていると期待する
・祈る
・問題を小さい問題に切り分ける
・目標を決め、それに向けて努力する
・自分の病気をあるがままに受け入れる
・身体の運動で緊張を解消する
・自分のことだけに集中せず、他の人や他の物事にも目を向けてみる
・瞑想・ヨガ・リラクゼーションなどを行い、リラックスする
・同じ状況の人に、自分の問題を話す
・家族や友人に相談する
・専門家に相談する

[表2] 患者さんが感じる各治療法の良い面の例(参考文献Dを参考に筆者が作成)
腹膜透析の良い面 血液透析の良い面
・自分で透析ができる
・(自分がやるので)周囲の人の負担が少ない
・通院回数が少ない
・透析療法を始める前と比べて、体調が良くなった
・透析のおかげで生きている
・透析開始前よりも、食事の制限が少ない
・時間の融通が利く・1回の透析時間が短い
・透析療法を始めてから、気持が安定した
・透析をし終わった時、気分が良くなる
・透析をし終わった時、体調が良くなる
・腕にシャントを作らなくてよい
・仕事に支障が少ない
・外出先で透析ができる
・その他
・透析を自分でする必要がない
・(病院でしてもらえるので)周囲の人の負担が少ない
・病院へ頻繁に行くので、安心
・透析療法を始める前と比べて、体調が良くなった
・透析のおかげで生きている
・透析開始前よりも、食事の制限が少ない
・透析をしていない日は自由に過ごせる
・透析療法を始めてから、気持が安定した
・透析をし終わった時、気分が良くなる
・透析をし終わった時、体調が良くなる
・思ったよりも、シャントは目立たない
・入浴やプールに入ることができる
・その他
治療法の選択について話す時にできること (参考文献Eなどを参照して筆者が作成)
治療法の選択について医療従事者と話し合う必要が生じた場合、自覚がないとしても、自分の心身にストレスがかかっている可能性を踏まえて準備をすることが役立ちます。

(1)各治療法の特徴を、自分がちゃんと理解したか、ふりかえりましょう。ストレスが強い時期は、理解力も一次的に低下することが多いものです。
(2)各治療法の特徴を理解した後、「自分が感じた」各治療法の良い点と良くない点について、紙に書き出してみましょう。その際、自分が大切にしているライフスタイルをできるだけ維持できるように、自分が生活で大切にしていることも書いておくと相談がしやすいと思われます。
(3)決断するために、身近な人と相談する必要がある場合は、相談したい人のリストも作ってみましょう。ストレスが強い時は、相談すべき人がぱっと思いつかないこともあります。
(4)それらをもとに、医療従事者と話し合ってみましょう。
ストレスによって生じる心の状態「不安と抑うつ」 (参考文献Fなどを参照して筆者が作成)

透析患者さんが経験する心のつらさには、「不安」と「抑うつ」があることが知られています。これらはある程度は通常の反応です。これらがあったからといって直ちに治療が必要というわけではありません。しかし、日常生活に支障が出るほど強ければ、何か対策を考えることも必要となるでしょう。
以下の症状に心当たりがある項目が多く、それらが数週間にわたって続くようであればストレスが高い状態です。


<不安>
緊張感を感じる/心配事が頭から離れない/何かひどいことが起こるような気がする/機嫌が悪い、怒りっぽい/のんびりくつろぐことができない、リラックスできない/急に身体が不快な感じになる(胃が気持ち悪くなる、めまいや動悸がする、冷や汗が出る)/眠れない/ひどくイライラして、落ちつきがない/急に不安におそわれる

<抑うつ>
以前楽しんでいたことが楽しめない/笑うことが少なくなった/くよくよした考えが心に浮かぶ/考えや反応がおそくなったように感じる/集中できない/自分の身なりに興味を失った/これからのことが楽しみにできない/自分を責めてしまう/読書やテレビの番組などが楽しめない/気持ちが落ち込む/眠れない/生きるのが面倒になる

参考文献
(A)春木繁一 2007 透析患者の「抑うつ」:その臨床像と基本的理解 臨牀看護33(9)1312-1317
(B)堀川直史 2008 透析を受ける患者の心理とその特徴 臨牀透析24(10),1363-1368
(C)岩沢純子・鈴木妙・関口美穂子・五十嵐節 1996 血液透析患者と持続的携帯式腹膜透析患者のストレスおよびコーピング 埼玉医科大学短期大学紀要7,47-53
(D)中村菜々子 2009 透析療法の恩恵と負担:心理学の立場から 中国腎不全研究会誌,18,1-2
(E)OHRI 2005 Kidney failure: What type of dialysis should I have? http://decisionaid.ohri.ca/AZsumm.php?ID=1109 (access on 31 October, 2009)
(F)Zigmond AS, Snaith RP,北村俊則訳(1994).Hospital Anxiety and Depression in Scale(HAD尺度)精神科診断学,4,371-372

 

 
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