腎臓教室 Vol.56
緊急レポート
東日本大震災の際に、透析施設が停電や断水の影響を受け、別の病院でやっと透析を受けた方もいらっしゃると思います。こんな巨大地震は二度と起こってほしくありませんが、地震に限らず、災害時、透析患者さんはどうすればよいのか、日頃からどのようなことを心がけておけばよいのか、どんなものを用意しておけばよいのか、東京都区部災害時透析医療ネットワークがまとめた「透析患者災害対策マニュアル」をもとに、その要点をご紹介したいと思います。透析患者さんに限らず、日頃から災害が起こった場合のシュミレーションをして、家族とどこで落ち合うかを話し合っておくのはもちろんのこと、必ず持ち出す物などの用意をしておくことが大切です。とくに透析の患者さんは、血液透析は一日おきに、腹膜透析は毎日やらなければいけないわけですから、それなりに心の準備をしておくことが求められます。血液透析、腹膜透析、それぞれについて、マニュアルの中から大切なポイントをご紹介したいと思います。
血液透析(HD)をしている方の場合
日頃から病院や行政が出している「防災マニュアル」には目を通しておきましょう。透析中に地震がきたときには穿刺針が抜けないようにしっかり押さえて揺れが収まるのを待ち、スタッフの指示に従って回路をはずし、安全なところに避難しましょう。そのときにはあなたの安否がわかるように、指定された避難場所等には、必ず連絡を入れるようにしなければなりません。日頃お世話になっている透析病院が甚大な被害を受けることもありえます。そんなときは、ほかの医療機関で透析を受けなければなりません。その場合、「災害時透析患者カード」をつねに持ち歩き、提示できるようにしたいものです。家にカードをおいたまま、家も損害を受けたなどというときには、自分の透析方法やデータ、内服薬の名前等は記憶しておいたほうが安全ですね。自分が通う透析病院が被害を受ける可能性も考慮して、日頃から親戚や職場、友人の家から通える透析施設の名前や電話番号もメモしておきましょう。
災害時、公共の交通機関が使えないことも考慮して、病院へのアクセス、移動手段等も日頃からイメージしておきましょう。なんとか透析を受けられるようになっても、家が倒壊して避難所でしばらく暮らさなければならないということもありえます。そんなときには、配られる食事の塩分や栄養素にも気を配り、ちょっとでも息苦しかったり、日頃と違う、体調に違和感を覚えたら、避難所のリーダー等に、遠慮せず医療機関に連絡をとってもらうようにしてください。
腹膜透析(PD)をしている方の場合
透析液の注入や排液をしているとき、夜間腹膜透析をやっているときに災害が起きたら、まずカテーテルが破損していなければ、清潔に気をつけながらチューブを外して、しっかりキャップを締めましょう。腹膜透析は、透析できる場所と薬剤・器材があれば治療を行うことができますので、体に怪我がなければ、透析できる場所と透析液等に被害がないか確認しましょう。自宅が破損している場合には、避難所で暮らすことも考えなければなりませんが、日頃飲んでいる薬を忘れず携行するとともに、バッグを交換できる衛生的な場所を見つけ、確保することも重要です。自分のいる場所や体調について、医療機関にすみやかに報告することも忘れないでください。
移植を受けている方の場合
避難する場合でも、免疫抑制薬だけは忘れず必ず持って出てください。阪神淡路大震災のときにも、移植した方たちは、何も持ち出せなかったけれど免疫抑制薬だけは持って出たという方が大勢いらっしゃいました。 保存期の方、糖尿病の治療中の方、高血圧の方も、日頃飲んでいる薬を必ず持ち出す習慣を身につけておいてください。とくにインスリン治療中の方は、インスリン注射を中断しないようにしなければなりません。災害時に便利なインスリン製剤と注入器が一体になっているものがありますので、常日頃準備しておくとよいでしょう。
病気を持っている人だけでなく、日頃から災害のときに家族がどこで落ち合うか、災害用伝言ダイヤル(171)を活用しようと話し合ったり、健康保険証や運転免許証のナンバーを手帳にひかえたり、非常持ち出しのものを用意しておくだけでなく、ときどき中身を再チェックして、何が入っているか確認することも大切です。災害が起こらないに越したことはありませんが、今回の東日本大震災のような予想だにしない災害もありえます。日頃からの備えを再認識しておきましょう。